■ ニュースの概要・引用元の紹介
ニュースURL:
大阪市公式サイト(住民監査請求に関する情報)
概要:
大阪市が推進するIR(統合型リゾート)事業用地に関わる賃料設定をめぐり、一部住民団体が「将来時点での賃料が過度に低額に設定されている可能性がある」として住民監査請求を行いました。背景には、市側が依頼した鑑定評価額やその算定根拠が、将来の社会経済情勢やIR施設の収益性をどこまで織り込んでいるのかが不透明だという指摘があります。本記事では不動産鑑定士の専門的立場から、「将来時点の評価」にかかる慎重さと不動産鑑定評価基準の考え方を踏まえ、妥当な賃料設定に求められる要件を解説します。
■ 問題点の把握
IR事業用地の場合、通常の商業地や住宅地と異なる特殊な要素が多分に含まれます。カジノやホテル、イベント施設など統合型のレジャー機能が計画されることで、土地の収益性や需要が一般的な市街地とは大きく異なる可能性があるのです。
さらに賃料設定では、将来時点の市場状況をどこまで適切に織り込むかが大きな論点となります。2020年代後半以降の経済成長率、インバウンド需要の回復見込み、レジャー産業の法規制など、不確定要素が多岐にわたるため、その前提条件の設定や評価手法の選択が非常に重要になります。
住民監査請求では「IR事業用地の賃料(鑑定評価額)が将来的な利用状況を十分考慮していないのではないか」という疑念が投げかけられており、不動産鑑定士としても評価プロセスの透明性や慎重さを再点検する必要があります。
■ 問題点・深刻化する理由
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1. 将来需要の変動リスク
IR施設の開業時期や規模、国内外からの集客力などが確定していない段階で、将来需要を見込んだ賃料を算定するのは容易ではありません。もし需要予測が甘ければ、不当に低額の賃料が算定され、公的資産の評価を損ねる恐れがあります。 -
2. 賃料設定における適切な利回りの検討
不動産鑑定評価では収益還元法を用いて賃料を求めることが多く、還元利回りをどのように設定するかが大きなポイントです。リスクの大きい事業ほど高い利回りが求められますが、IR事業の特殊性をどこまで織り込んだかが不透明だと批判を受けやすくなります。 -
3. 将来時点の評価に対する「鑑定評価基準」の考え方
不動産鑑定評価基準では、将来時点の評価を行う場合、適切な前提条件や根拠の明示が求められます。未来予測は不確実性が高いため、評価の根拠を丁寧に積み上げ、複数のシナリオを比較検討するなど、慎重なアプローチが必要です。 -
4. 行政側と鑑定士の相互チェック機能
公的機関が依頼する鑑定評価の場合、依頼者である行政サイドの意向が過度に反映されるリスクも指摘されています。不動産鑑定士は「中立的な立場」で「専門職業家」として、適切な評価を行う一方、行政も内容をしっかり理解・精査し、住民に説明できるような体制を確立する必要があります。
■ 不動産鑑定士の視点でみる具体的な対策
「国家資格」を有する不動産鑑定士は、「不動産の問題解決」に寄与するうえで、IR事業用地など特殊用途の評価にも対応できる専門知識を備えています。特に将来時点を見据えた賃料評価においては、次のような視点が重要です。
● 1. 収益還元法の慎重な適用
IR事業用地では、資産が生み出す将来収益を予測し、それを還元利回りによって現在価値に割り戻す「収益還元法」が用いられるケースが多いです。この際、複数のシナリオ(強気・中立・弱気)を想定し、それぞれの前提条件(集客数やインフレ率、法規制の変動など)を明確に開示したうえで評価額を検討することが望ましいでしょう。
● 2. リスクプレミアの設定
不動産鑑定評価基準では、リスクの大小に応じた利回り(リスクプレミア)の加減を行うことが認められています。IR事業のような大規模観光開発は、社会情勢や経済動向、政策変更の影響を受けやすいため、リスクプレミアを慎重に設定しないと将来にわたる賃料が不当に低く(または高く)算定される恐れがあります。
● 3. 長期契約に伴う賃料改定条項の考慮
IR事業用地の賃貸借は通常、長期契約になる場合が多く、中途での賃料改定があり得ます。不動産鑑定士としては、改定時の評価手続きや市場経済状況を反映する仕組みが契約上整備されているかを確認し、それを前提に現在の評価を行うことが重要です。
● 4. 行政と住民への丁寧な説明
住民監査請求が示すように、公的案件では評価内容への疑義が生じやすいものです。不動産鑑定士は「専門職業家」として評価書に至るプロセスや根拠を丁寧に説明し、行政や住民が理解・納得できる情報開示を行う必要があります。
評価の透明性を高めることで、住民やステークホルダーとの信頼関係が構築され、公有地の有効活用がより円滑に進むでしょう。
■ まとめ(読者への注意喚起・アドバイス)
大阪市の「住民監査請求(IR事業用地に関する賃料設定)」は、将来時点を考慮した不動産鑑定評価がいかに慎重であるべきかを改めて示唆する事例と言えます。IR事業のように大規模かつ不確実性の高い再開発では、将来需要の見込みやリスクプレミアの設定を誤れば、公的資産の評価を著しく損ないかねません。
不動産鑑定評価基準では、未来予測の伴う評価は特に根拠の透明性と客観的な数値分析が求められます。複数のシナリオを用意し、それぞれの前提条件を検証したうえで結論に至るプロセスを丁寧に積み上げることで、納税者や住民に対して説得力のある賃料を提示できるでしょう。
今後もインフラ整備や観光振興策など、公的プロジェクトで同様の評価が求められる場面は増えると考えられます。不動産鑑定士が「中立的な立場」から適切に評価を行い、行政や住民とのコミュニケーションを密にすることで、公的資産の有効活用と住民利益の両立を実現できるはずです。
■ 「不動産鑑定評価の依頼のススメ」
不動産鑑定士は、「国家資格」をもつ「専門職業家」として、不動産の価格や賃料を客観的に評価する役割を担っています。
主な相談内容の例:
・IR用地や大規模開発案件における賃料・価格の算定
・相続・事業承継時の公正な不動産評価
・収益還元法を用いた複数シナリオの比較検討によるリスク分析
など、幅広いシーンで「不動産の問題解決」をサポートすることが可能です。
住民監査請求のように公的案件での鑑定評価に疑義が生じた場合も、不動産鑑定士に相談することで、公正・透明性の高い評価プロセスを確立できます。
公式サイト:https://sakk.jp/adex
※本記事は一般的な見解に基づくもので、特定の法的アドバイスを提供するものではありません。
不動産鑑定評価等でお困りの場合は、弊社の相談窓口にご相談ください。