要点:東京都千代田区が、市街地再開発で販売される新築マンションに引き渡し後5年間の転売禁止条項を導入するよう業界に要請。中野区の酒井直人区長は「千代田区の影響を見て、今後検討する必要がある」とコメントしました。背景には、転売(短期売買)で実需の購入機会が奪われ、周辺価格まで押し上げてしまう副作用への懸念があります。
出典:日本経済新聞「マンション転売規制要請、東京・中野区長『千代田区の影響見て検討』」(2025年9月8日)
1. 「転売禁止条項」ってなに?
簡単にいうと、新築を買ってすぐに売って差益を得る“フリップ”を防ぐための約束です。契約書や管理規約などに「引渡しから◯年間は転売不可」「違約金」「ディベロッパーへの優先買取権」などが書かれ、買主はそれに同意して購入します。千代田区の要請は法規制ではなく“業界へのお願い”なので、物件ごとに導入の有無・内容が異なる点に注意してください。
2. なぜ今、規制が話題に?
- 価格高騰の一因抑制:短期転売が増えると、抽選で実需層に住戸が回りにくく、分譲価格や周辺相場が過度に跳ねやすい。地域の安定した居住を損なう懸念があります。
- 地域コミュニティの安定:短期保有が減ると、居住実態が伴う購入が増えやすく、管理やコミュニティが維持されやすいという期待があります。
3. 生活者にとってのメリット/デメリット
メリット
- 実需の買い手に住戸が行き渡りやすくなる(購入機会の改善)。
- 極端な“プレ値競争”が落ち着けば、相場の安定が期待できる。
デメリット(留意点)
- 資産の流動性が下がる:転勤・離婚・介護など予期せぬ事情で5年以内に売りたい場面で制約に直面する可能性。
- 条項の例外・違約金・再取得条項の内容によって、負担や選択肢が大きく変わる(物件ごとに異なる)。
- 一部では賃貸募集・名義変更にも制限や事前承認が付くケースがある(契約で要確認)。
4. 価格はどうなる?(鑑定士の見立て)
- 新築価格:転売制限が厳しいほど、市場では一般に「流動性ディスカウント(売りにくさ分の割引)」が意識されます。ただし、希少な好立地や仕様が強い物件では、制限の影響が価格に出にくいこともあります。
- 中古価格:短期フリップが減ることで“過度な上振れ”は抑制方向。一方、実需支持の厚いエリアは底堅さを保ちやすいでしょう。
- 賃貸家賃:分譲流通の過熱が落ち着けば、賃貸の需給面でも極端な上昇圧力はやや緩和しやすくなります(立地次第)。
5. 購入前にここをチェック(重要)
- 契約書の条項:転売禁止期間、違約金、例外(相続・離婚・病気・転勤等)、名義変更・賃貸の可否、事前承認の要否を営業資料ではなく契約書本文で確認。
- 資金計画は長期目線:5年間は売らなくても済むキャッシュフロー(ボーナス依存度・金利上振れ耐性・固定資産税や管理修繕費)を試算。
- ライフイベントの可能性:転勤・家族計画・介護などの確率を見積もり、「例外運用」時の手続きやコストを販売会社に具体的に質問。
- 中古・他エリアとの比較:転売制限のない優良中古や、制限が緩い物件の総コスト・暮らしやすさと冷静に比較。
6. 投資・オーナーの方へ(簡潔に)
- 短期譲渡が前提の投資は難度が上がります。長期保有・賃貸運用の事業性(空室・賃料・修繕・金利)で再設計を。
- 転売制限付き住戸は、評価上市場性(マーケタビリティ)の調整が必要。比較事例は同様の条項が付く物件でそろえるのが基本です(鑑定上の留意点)。
7. よくある質問
Q. 5年以内に売らなければならない事情が出たら?
A. 多くの条項には「やむを得ない事由」の例外や、事業者の承認、ディベロッパーの優先買取などの運用が設けられることがあります。物件ごとの契約条項を必ず確認しましょう。
Q. 住宅ローンに影響は?
A. 一般に転売禁止はローン可否の直接要件ではありませんが、将来売却での柔軟性が下がるため、返済計画は余裕を持って。金融機関から条項の確認を求められる場合もあります。
Q. 資産価値は下がりますか?
A. 「売りにくさ」は価格を抑える方向に働く一方、立地・規模・管理・設備・眺望などの“普遍価値”が強ければ、総合評価で十分に選ばれます。個別性が大きいので、総合点で判断を。
記事の引用元:日本経済新聞「マンション転売規制要請、東京・中野区長『千代田区の影響見て検討』」(2025年9月8日 16:00)
規制の議論が進むほど、市場は“住むための価値”に寄り戻されていきます。購入前には、条項・資金・暮らしやすさを丁寧に確認し、ご自身のライフプランと無理のない範囲で意思決定をしましょう。

