全国の空き家は900万戸超。地方だけでなく、都市でも空き家が増えています。東京都世田谷区は、空き家数が全国最多と報じられたことを機に、専門部署の設置、無料相談窓口「せたがや空き家活用ナビ」、民間とのマッチング、そして改正空き家法の活用などを進めています。
出展:日本経済新聞「都市にも空き家 『最多自治体』世田谷区の取り組み」(2025/4/12)
1. 都市でも空き家が増える理由(かんたんに)
都市の空き家は、古家が放置されるというより、相続をきっかけに発生するケースが多数です。相続人はすでに自宅持ち、片付けが大変、評価額が高く決断しづらい、共有相続で話が進まない——こうした「人の事情」が中心です。世田谷区では、空き家の約8割が5年以内に売却・利活用されますが、同じペースで新たな空き家が生まれる“いたちごっこ”が続いています。
2. 何が変わった?—改正空き家法で「管理不全空き家」にも実質ペナルティ
2023年12月施行の改正空き家対策特別措置法で、放置が進む前段階の管理不全空き家にも自治体が勧告でき、勧告されると住宅用地の固定資産税の特例(最大1/6)と都市計画税の特例(1/3)が解除されます。俗に「固定資産税が6倍」と言われるのはこの特例が外れるため。評価額が高い都市部ほどインパクトが大きく、“動かざるを得ない”状況が作られました。
3. 世田谷区の実務は参考になります(他地域でも応用可)
区は2016年に専門部署を立ち上げ、所有者の特定・個別相談・是正を粘り強く実施。2021年からは民間と連携した無料相談窓口「せたがや空き家活用ナビ」と、所有者×事業者のマッチングを稼働させ、3年強で約270件の相談に対応してきました。さらに2024年度からは、予防(発生防止)にも注力。ガイド『せたがや 家の終活』や『本格終活シート』を配布し、早めの準備を促しています。
注目点は、特定空き家(最も深刻な状態)の指定や代執行まで至る件数が少ないこと。法的強制よりも、早めの相談と選択肢の提示が奏功しているといえます。
4. 実家を“放置空き家”にしないための道筋(段階別のチェックリスト)
(A)いま親が住んでいる段階(予防)
- 家の情報を見える化:権利(登記簿)、評価(固定資産税通知)、法規(用途地域・接道・再建築の可否)、修繕歴、残置物の量。
- 相続の方針を話す:誰が引き継ぐ/売る/貸す。共有は極力避けると、後々もめにくいです。
- 片付けを始める:生前整理・不用品の処分は、コストと時間の節約に直結。写真・アルバムのデータ化も有効。
(B)相続が起きた/起きそう(初動)
- 相続登記は義務化(2024年4月〜):3年以内に名義変更。罰則・過料のリスクも。早めに司法書士へ。
- 相続税・所得税の確認:評価・控除・特例(相続空き家の3,000万円特別控除など、要件を税理士に確認)。
- 利活用の一次判断:売る(現状/リフォーム後)、貸す(賃貸/定期借地)、保有(管理・将来の出口)。
(C)空き家になった(管理と出口)
- 管理不全にしない:郵便物停止・雨漏り点検・通水換気・庭木剪定・防犯。近隣へ連絡先を伝えると安心。
- 法規と市場性を把握:再建築可否(接道2m/42条道路)、セットバック、ハザード(洪水・土砂・液状化)。再建築不可でも利活用の余地(賃貸・簡易宿所・コンバージョン)があることも。
- 出口の選択肢:現況売却/リフォーム売却/「買取」や「買取保証」/マッチングプラットフォームや自治体の空き家相談を活用。
5. 鑑定士の見解:価格は“物件の状態+法規+人の事情”で決まります
実家の売却が進まない最大の理由は「人の事情」です。片付けの負担、共有者の意見の対立、感情的なハードル。ここを解くと、価格や条件は自然に前へ進みます。市場では、立地・法規(再建築可/接道)・ハザード・建物の状態の組み合わせで価格水準が決まります。
再建築不可や法規制が厳しい物件でも、買取業者やリノベ専門の事業者が価値を見出す例は増えています。時間をかけてでも複数社の意見を聞き、相見積もり・相査定で目線を合わせましょう。
6. 早めに動くと得をします(税金・時間・ご近所)
改正法により、管理不全空き家の税優遇が外れると負担が急増します。草木・害虫・雨漏り・不法侵入などの二次被害が出る前に、管理委託や簡易清掃・通風からでも始めてください。ご近所への一声で、連絡先と意向を伝えておくと、万が一の際に連絡がもらえて被害を防げることがあります。
7. まとめ:空き家は“人の問題”から解くと、道が開けます
世田谷区の経験が示すのは、強制よりも早めの可視化と相談、そして選択肢の提示が解決を進めるということです。実家の情報を整理する、家族で方針を共有する、自治体・専門家・民間の窓口を使う。「いま何をするか」を決めるだけでも、空き家は“放置”から“管理・活用”へと動き出します。迷ったら、まずはお住まいの自治体の空き家相談や、無料相談窓口に連絡してみましょう。
出展:
日本経済新聞「都市にも空き家 『最多自治体』世田谷区の取り組み」(2025/4/12)