日本不動産学会が「既存住宅(中古住宅)の性能向上と流通活性化」をテーマにシンポジウムを開催しました。行政・事業者・金融・学術の登壇者から、情報が伝わらない(情報の非対称性)、リフォーム人材の不足、検査済証のない築古の扱いなど、具体的な課題が共有され、今後の施策や金融優遇の紹介もありました。この記事では、不動産鑑定士の立場から、生活者が「損をしない」ための要点を平易に解説します。
出展:Re-PORT「『既存住宅の性能向上』テーマにシンポジウム開催」
1. 何が議論されたの?(かんたん要約)
- 情報の非対称性:丁寧にメンテ・リフォームしても、それが買い手に十分伝わらず、価格に反映されにくい。
- 性能更新の鍵はリフォーム:ただし大工・職人の減少、検査済証のない築古の取り扱いが足かせ。
- 金融の後押し:住宅金融支援機構のローン商品・優遇策の紹介。性能向上に資金が回る仕組みが拡充。
- 政策の方向性:住生活基本計画の見直しに向け、既存ストックの性能見える化・市場活性の施策を具体化。
一言で言えば、「性能が見える中古」ほど評価され、資金も付きやすい方向に市場は動きます。
2. なぜ大切?(不動産鑑定士の見解)
中古住宅の価格は、立地や築年だけでなく、性能(耐震・断熱・設備)と維持管理の履歴で大きく変わります。ところが、書面・データで裏付けされた情報が不足すると、買い手はリスクを見込み、価格は抑えられがちです。逆に、性能が客観的に示され、履歴が揃っている住宅は、売却が早く、値引きも小さく、融資条件が有利になる傾向があります。
3. 買い手はここを見る(書類で“性能と安心”を確認)
- 既存住宅インスペクション報告:基礎・屋根・外壁・雨漏り・給排水などの劣化状況。
- 耐震関連:耐震診断書、補強工事の設計・施工報告、評点(1.0以上が目安)。
- 省エネ・断熱:断熱改修・窓(Low-E/複層)・給湯器(高効率)・断熱材の仕様、光熱費の実績。
- 履歴・図面:新築時図面、検査済証、増改築の確認申請・完了検査、修繕・リフォームの領収・仕様書。
- 法規・適合性:用途地域、接道・再建築可否、建ぺい・容積、越境・工作物。
- ハザード:洪水・土砂・液状化マップ、地盤調査(スウェーデン式など)があれば尚可。
ポイント:資料が揃っていない物件は、追加点検と見積書を取って「必要コスト込みの総額」で判断。値引き交渉も数字で。
4. 売り手はここを直す(費用対効果の高いリフォーム)
- 雨仕舞い・防水:屋根・外壁・バルコニーの防水。雨漏りゼロは最優先。
- 水回りの健全化:給排水(漏水・つまり)と浴室の防水ライン。
- 断熱・窓まわり:内窓・複層ガラスは体感と光熱費に効く。
- 書類化:施工写真・仕様書・保証書を必ず残し、「見える価値」にする。
見た目だけの表層より、不安を潰す改修+根拠書類が価格に効きます。
5. 金融の後押しを活用する(借り手も貸し手も得をする)
住宅金融支援機構や自治体の制度には、耐震・省エネリフォームで金利優遇や補助が用意されています。買い手は、改修費をローンに一体化できる商品の活用で、後回しになりがちな工事を前倒しできます。売り手(オーナー)も、省エネ・耐震で賃貸の稼働率と賃料を底上げし、出口(売却)での評価を高めやすくなります。
6. 検査済証がない築古はどうする?(現実的な打ち手)
- 実測・現況図を整備し、法適合性を建築士に確認。
- 違反の是正余地(一部是正・用途変更)をシミュレーション。
- どうしても適合困難なら、用途変更・コンバージョン・敷地分割など最有効使用(HBU)を検討。
「適法性の見える化」ができると、金融もつきやすくなり、流通が進みます。
7. まとめ:中古の価値は「情報×性能×履歴」で決まる
シンポジウムのメッセージは明快です。性能を上げて、それを客観的な情報で示す――これが中古住宅の価値を高め、市場を活性化させます。買い手は書類と数字で安全性とコストを確認し、売り手は不安を潰す改修と記録で「見える価値」を作る。金融・政策の後押しも増えています。まずは資料集めと点検から。中古住宅は、準備次第で「安心で、賢い選択」になります。
出展:
Re-PORT「『既存住宅の性能向上』テーマにシンポジウム開催」

