第一生命保険と清水建設が、東京・京橋に木造×鉄骨のハイブリッドでつくった賃貸オフィス「第一生命京橋キノテラス」を公開しました。国産材約1,100m³を柱・梁・耐震壁・床などに用い、建設時のCO₂排出を約37.5%削減(同規模S造比)したとされています。高さ56mの中高層木造混構造としては国内最大級で、テナントは約9割確定と需要面でも好調とのことです。
出展:日経クロステック/日経アーキテクチュア「国内最大級の都市木造ビルが完成、第一生命と清水建設の『キノテラス』」(2025/07/30)
1. 何が新しいの?(ポイントをやさしく)
・構造:木と鉄骨を組み合わせた木質ハイブリッド構法(清水建設「シミズ ハイウッド」)。
・環境:国産材活用で約740トンのCO₂固定、鉄骨は約70%が電炉材、建設時CO₂▲37.5%。
・用途:地下2/地上12階、低層は店舗・クリニック、中層は展示、上層はオフィス。銀座線京橋駅直結。
・市場:竣工前にテナント約9割が決まる人気ぶり。
2. 鑑定士の見解:木造ハイブリッドは「ESG×働きやすさ」で価値を底上げ
(1)グリーン需要の取り込み
上場企業や外資は、CO₂削減・サステナビリティの目標を掲げています。製造時のCO₂(エンボディドカーボン)を抑えたビルは、テナント選好(グリーン・プレミアム)を得やすく、賃料・稼働率の下支えに繋がります。
(2)快適性・生産性(バイオフィリック効果)
意匠に木を見せる空間は、心理的な落ち着き・集中・満足度の向上が期待されます。採用・定着・オフィス回帰の文脈で“選ばれる職場”づくりに効きます。
(3)資産の将来性(グリーン金融)
省CO₂建築は、グリーンボンド・サステナビリティ・リンク・ローンの調達余地が広がり、資本コスト低下のメリットが出やすくなります。出口(売却)でも投資家の評価が得やすい傾向です。
3. 注意点:木造混構造で確認したいこと
- 耐火・音・耐久:耐火等級・被覆仕様、床衝撃音・気密断熱、含水率管理・防蟻・結露対策。長周期地震動への配慮も。
- メンテナンス計画:木部の露出範囲、クリア塗装や防火被覆の再塗装周期、長期修繕計画に反映されているか。
- 保険・査定:火災保険・地震保険の料率や引受条件、鑑定評価・融資評価での取り扱い(残存価値・減価の考え方)。
- サプライチェーン:国産材の安定供給、FSC/PEFC等の認証、トレーサビリティ。
これらが“数字と計画”で説明できるビルは、中長期の運用でも安心感が高まります。
4. 借りる立場(テナント)のチェックリスト
- ESG開示との整合:Scope3/エンボディドカーボンへの寄与、グリーン認証(CASBEE/LEED/BELS等)の取得状況。
- 働きやすさ:天井高・自然素材の露出・温熱/音環境、フロア可変性、入退去の原状回復ルール。
- BCP:非常電源の範囲、帰宅困難者対応、避難計画、耐火・延焼の仕様。
- コスト:賃料・共益費に加え、原状回復・内装耐火仕様の追加コストを見積りに織り込む。
5. 投資家・オーナーのポイント(運用と出口)
- 賃料形成:グリーン・プレミアム(賃料上振れ)と運営費(清掃・保全)のバランスをNOIで可視化。
- リーシング:ESG目標・ウェルビーイング重視のテナントをターゲットに。木質意匠+快適性データで説得力を高める。
- 資金調達:環境性能を裏付けにグリーン金融を活用。第三者検証で信頼性を高める。
- 出口戦略:認証・環境性能の更新(リニューアル認証)を維持し、売却時にESGスコアで競争力を確保。
6. 生活者にはどんなメリットが?
駅直結・医療・店舗併設など利便性の高い複合機能が、温かみのある木質空間と組み合わさることで、街の魅力が上がります。国産材の需要が増えれば、林業・地域経済にもプラスです。結果として、周辺の地価・賃料の底上げや、住みたい・働きたい人を引きつける力につながります。
7. まとめ:木のオフィスは“気持ちいい”だけじゃない。数字でも強くなる
都市の木造ハイブリッドは、環境評価・働きやすさ・資金調達の面で、従来のオフィスよりも優位に立てる可能性があります。重要なのは、性能・維持管理・BCPをデータで示し、賃料・稼働・資本コストに反映させること。借りる側も、働きやすさとESGの両立を“数字で”評価すれば、長く満足できるオフィス選びができます。今回の「キノテラス」は、その方向性を示す象徴的な案件と言えるでしょう。
出展:
日経クロステック/日経アーキテクチュア「国内最大級の都市木造ビルが完成、第一生命と清水建設の『キノテラス』」(2025/07/30)

