九州市長会の大西一史会長(熊本市長)が「国全体のレジリエンス(強靱性)やバックアップを考えると、九州は副首都の選択肢になりうる」と発言しました。福岡市や北九州市の市長も関心を示しています。
出展:読売新聞オンライン「『副首都構想』巡り九州市長会長『九州は一つの選択肢になりうる』」(2025/10/29)
1. 何がポイント?(かんたん要約)
「副首都構想」は、災害などの非常時でも行政・経済機能を止めないために、首都機能の一部を別の都市圏に持たせるという考え方です。南海トラフ地震などの広域災害を想定すると、関西から離れた九州(とくに都市機能が充実する福岡)が候補になり得る、という見方が示されました。
2. 不動産にどんな影響が出る?(短期/中期/長期)
短期(発言~計画段階)
まず動くのは「期待」です。オフィス・住宅・ホテル・物流などの将来需要を先取りする動きが出やすく、情報感度の高いエリア(天神・博多駅周辺、アイランドシティ、北九州の小倉駅周辺など)で地価・賃料の先行高が起きることがあります。ただし、この段階では実需(実際の入居や雇用)が伴わないため、上げ下げが速いのも特徴です。
中期(制度化・個別プロジェクトの動き出し)
実際に行政機能の一部移転、データセンター・官民バックアップ拠点の整備、交通インフラの増強などが始まると、オフィス移転・バックオフィス集約・人材移住が進みます。ファミリー向け住宅・教育・医療の需要が増え、駅徒歩圏の中古マンションや良質な戸建の価格・家賃を下支えします。
長期(機能定着)
「副首都」機能が定着すれば、安定雇用と人口流入が続き、地価・賃料の底力が増します。物流・港湾・空港と結びつく産業用地・倉庫の価値も高まりやすく、ビジネスと暮らしの両面で連鎖的な波及が見込めます。
3. 注意点:期待先行に要注意、インフラ・規制・人材が鍵
- 政策の具体化:どの機能を、どの時期に、どのエリアへ――制度・予算・工程が伴わないと、相場が先走って後戻りする恐れ。
- インフラの実力:空港・新幹線・道路・港湾・電力(データセンター用の大容量)・上下水。BCP(事業継続計画)に耐えるかが企業の判断基準に。
- 人材と生活環境:受け皿となる人材(行政・IT・通訳)と、教育・医療・住宅の量と質が「移転の本気度」を左右。
- 災害リスク:九州でもエリアにより地震・豪雨・高潮リスクは異なります。ハザードマップで地点確認が必須。
4. 不動産鑑定士の見解:立場別「いまできること」
マイホームを検討する人
- ニュースだけで判断せず、現地の成約事例と家計の持続性で判断。金利が上がっても返済比率が手取りの25~30%に収まるかを試算。
- 中古は性能と履歴(耐震・断熱・修繕記録)を確認。立地は駅距離・生活利便・学区の「普遍価値」を優先。
- 将来の移転需要を見込むなら、賃貸に出しやすい間取り・立地かもチェック。
投資家・オーナー
- 「期待先行」は短期で上下しやすい。NOI(純収益)前提は保守的に置き、LTV(借入比率)は抑えめに。
- オフィスは小区画・サービスオフィスやBCP対応(非常電源・上水・通信冗長)で拠点分散ニーズを取り込む。
- 住宅はファミリー向け・駅近・省エネに小規模リノベで付加価値。賃貸ではネット無料・宅配ボックス・電子契約が成約を早めます。
- 物流・データセンター関連は電力・用途地域・騒音動線など許認可の目利きがカギ。
企業の不動産担当(総務・人事)
- 災害時バックアップオフィスの確保、IT・人事のコア機能分散を検討。テレワークと出社のハイブリッドで生産性を落とさない配置に。
- 賃貸借はフリーレント・増床/縮小のオプション・解約条項など柔軟性を確保。BCPの要件は契約書に明記。
5. エリアを見る「現地チェック」3点
- 足回り:空港・新幹線・都市高速・港湾へのアクセス時間、ピーク時の実測。
- インフラ余力:電力容量(データセンター/オフィス)、上下水、光回線のルート冗長。
- 生活の質:教育・医療・保育、災害リスク(洪水・津波・土砂)、夜間の治安・明るさ。
6. まとめ:期待だけで走らず、「実需・インフラ・人材」の足場を確認して進む
副首都の議論は、不動産の追い風になり得ます。ただし、価格だけが先に動くと、その反動も起きがちです。実需(雇用・人口)、インフラ(交通・電力)、人材と生活の受け皿が揃ってこそ、地価・賃料は長く支えられます。焦らず、現地と数字を確かめながら、一歩ずつ準備していきましょう。
出展:
読売新聞オンライン「『副首都構想』巡り九州市長会長『九州は一つの選択肢になりうる』」(2025/10/29)

