年利7%をうたった不動産投資商品「みんなで大家さん シリーズ成田」で配当遅れが続くなか、成田国際空港会社(NAA)は、事業者への用地貸与(全体の約4割)を今月末の契約満了で終了する方針を決定しました。造成工事の完了予定は4度延期され、現在は2027年8月。全国の出資者約1,200人が総額110億円超の返還を求めて集団訴訟を提起しています。
出展:読売新聞オンライン「年利7%約束した『みんなで大家さん』の配当遅れ問題、空港会社は開発用地の貸し付け『終了』方針」(2025/11/26)
1. 何が起きている?(かんたん整理)
- 事業者(共生バンク系)は成田空港周辺約45.6万㎡でホテル・展示場等を計画。NAAとは約19万㎡を借地契約(年1,800万円)で締結。
- 契約は当初2023年9月満了→2度延長→今月末で満了、NAAは「工事継続の資金力が確認できない」として延長せず。
- 造成工事は当初2021年3月末完了予定→延期を繰り返し、最新の完了期日を2027年8月末に変更。
- シリーズ成田は約1,560億円を集め、年7%配当を約束していたが、7月以降遅配が継続。出資者による集団訴訟が進行。
2. 不動産鑑定士の見解:借地終了(予定)はプロジェクトの“根幹”に直撃
今回のポイントは、事業用地の一部(約4割)が確保できなくなる見通しになったことです。開発プロジェクトでは、土地権利の確実性が事業価値の前提です。借地の延長不可は、計画の縮小・見直し・中止を余儀なくし、資金繰りや収益計画(NOI)に重大な影響を与えます。
配当遅延の局面で権利面の不確実性が増したことは、分配の原資(賃料・売却益)の見通しを一段と弱めます。評価の世界では、不確実性=リスク・プレミアムの上乗せにつながり、投資価値(現在価値)を押し下げる方向に働きます。
3. 出資者が直ちに確認したい「5つのポイント」
- 契約・目論見書:配当遅延時の扱い、借地終了・事業中止時の条項(解約・償還・優先順位)、関連当事者取引の開示。
- 資金繰りの計画:工事・リーシング・売却のスケジュール、必要資金と調達手段(エクイティ/デット/資産売却)。
- 資産の保全状況:未造成・未竣工部分の権利状態(所有/借地/予約)、担保設定、保険の付保状況。
- 資金の流れ(フロー図):分別管理・信託・エスクローの有無、出資金・賃料・工事代金の出入りの透明性。
- 第三者の関与:監査・第三者評価・弁護士/会計士のレポート、当局や元本回収を巡る訴訟の進捗。
原則:書面での説明請求と記録の保全(通知・回答・契約・領収)を徹底しましょう。追加出資・資金拠出要請がある場合は、根拠資料の提示が前提です。
4. 「次に備える」――似た投資で失敗を減らすチェックリスト
- 土地権利の確実性:所有か借地か/借地は満了日・更新条件・解除要件・地代改定/重要用地の相手方(公社・空港会社など)の意向。
- 配当原資の実在性:竣工・賃貸・売却などキャッシュの出所が明確か。竣工前の分配は前倒し(元本取り崩し)になっていないか。
- 工程・許認可:造成・建築・インフラの工程とクリティカルパス、変更履歴(延期の回数・理由)。
- KPIの開示:用地取得率、プレリース率、工事出来高、資金拘束額、LTV、DSCRなど、定量情報が定期開示されているか。
- 第三者の目:監査、信託保全、独立評価、重要契約のリーガルレビュー。
年率表示(7%など)は「結果」ではなく「前提」です。前提の実現可能性を数字で点検する癖をつけましょう。
5. 周辺の不動産市場への影響は限定的。ただし「信用」への波及に注意
個別プロジェクトの頓挫リスクは、周辺の地価や広域市場に与える影響は通常限定的です。一方で、類似スキーム(私募・小口・借地型・開発未着手)に対する投資家の慎重姿勢や、金融・仲介の審査厳格化は起こりえます。案件比較の基準が「高配当」から「権利・資金・工程の確実性」へとシフトする流れは健全です。
6. まとめ:借地終了は“警報”。情報を集め、書面で動き、冷静に選択を
NAAの用地貸与終了方針は、プロジェクトの存続可能性を問い直すシグナルです。出資者は、契約条項・資金繰り・権利関係の確認を急ぎ、書面のやり取りで記録を残しながら、回収・訴訟・交渉の選択肢を検討しましょう。これから投資を検討する方は、土地権利・工程・配当原資の実在を数字と書面で確かめることが、最大のリスク管理になります。
出展:
読売新聞オンライン「年利7%約束した『みんなで大家さん』の配当遅れ問題、空港会社は開発用地の貸し付け『終了』方針」(2025/11/26)

