6月16日の毎日新聞で、凶悪暴力団・工藤会トップが〈北九州市の土地23筆・7068㎡〉を信託制度で親族に移し、差し押さえを免れようとした疑いが報じられました。
この事件では家族信託が賠償回避の手段として悪用された可能性が指摘されていますが、実際には本来信頼できる家族による財産管理や円滑な承継を目的とした制度です。
ここでは、不動産の専門家である不動産鑑定士の立場から、家族信託の本来の意義と、信託を活用した不動産の適切評価・相続対策について詳しく解説します。
① 家族信託の本来の目的とは?
家族信託とは、親から子へ「あなたに管理してほしい」と資産を託し、認知症や判断能力低下を見据えた生前の準備として設計できる契約です。
これにより、不動産の管理・処分・収益運用が家族単位でスムーズに継承できるようになります。
主なメリットは以下の通りです:
- 認知症になっても資産管理が継続可能
- 遺言のように次世代以降への承継を柔軟に設計できる
- 共有名義によるトラブル回避や共有不動産の「塩漬け化」防止に有効。
ただし、制度設計を誤ると「節税にならない」「税務申告が煩雑」「誰が責任を持つか不明確」といった落とし穴もあります。② 正しく使えば揉めない相続が可能
信託を利用して生前に承継スキームを整備すれば、相続発生後の遺産分割協議がスムーズに進む可能性が高まります。
例えば、「長男を受託者に、収益を配偶者・次世代へ」と設計でき、共有化による争いを未然に防止できます。ただし、そのためには、不動産の現時点の価値や収益性を正確に把握した上で、信託後の受益権設定・代償金・管理義務などを明確に設計する必要があります。
③ 不動産鑑定士の必要性とは?
家族信託のスキームを機能させるには、信託する不動産の価値を正確に知ることが出発点です。公的評価額ではなく、“市場価格”をベースに評価することが信頼性を高めます。
A. 正確な時価評価で遺留分トラブルを防ぐ
例えば「土地の評価が5,000万円」とされても、実際に売れるのは8,000万円の場合もあります。
不動産鑑定士が客観的な鑑定評価書を作成することで、遺留分計算の根拠を明確にし、相続争いを回避できます。B. 信託後の資産配分に透明性を
家族信託では、誰がどの割合で利益を受けるかが契約設計の重要ポイントです。
この時点で評価額が不明瞭だと、「不公平」との訴えや、後々の代償金調整で揉める原因となります。C. 認知症後も「管理継続」の安心を
信託により子が受託者となって不動産を管理しますが、収益・修繕・処分などに関しては第三者的評価と報告が求められる場面があります。
不動産鑑定士が関与すれば、管理内容の適正判断・報告材料として事前に設計できます。まとめ(正しく使えば争族を防ぎ、安心を、悪用は制度の信頼を揺るがす)
- 家族信託は認知症・相続対策のための柔軟な資産管理スキーム
- 適切に契約設計すれば、不動産トラブルや相続争いの回避に有効
- しかし悪用されると、制度そのものへの信頼失墜にもつながる
- 不動産鑑定士による
①正確な価値評価、②代償金の分配設計、③受託者の管理体制整備は
信頼ある家族信託の要となります
「信託」という言葉だけに惑わされず、制度設計と不動産評価をしっかり見極めて、家族と自分の安心につながる資産承継を実現しましょう。
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家族信託や不動産評価についてのご相談は、不動産鑑定士が丁寧に対応いたします。
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