人口減少は不動産の「収益性」と「流動性」をどう動かすか:不動産鑑定士が読む最新人口データ
総務省の住民基本台帳(2025年1月1日現在)によれば、日本の総人口は1億2433万690人(前年比▲55万4485人)。日本人は1億2065万3227人と16年連続で減少し、減少数・減少率ともに過去最大。一方、国内の外国人は367万7463人で統計開始以降最多、全47都道府県で増加しました。東京都の総人口は1400万人を突破、千葉県も微増、他の45道府県は減少です。こうした事実は、地価・賃料・稼働率・出口流動性に直結します。まずは数字の輪郭を押さえます。
要点(投資・評価の視点)
- 「東京と千葉のみ増加」「他45道府県は減少」—人口集中は都心優位・周辺選別を再加速。都心でも用途・立地ごとの差は拡大。
- 外国人居住者は全都道府県で増加—賃貸市場のターゲット拡張(家具付き・短中期・多言語対応)で賃料プレミアの余地。ただし供給追随で収益性は逓減し得る。
- 全国の自然減は過去最大—地方・周縁部で空室率上昇圧力。DCFでは空室損失の上振れと出口利回り拡大(価格低下方向)を保守化すべき局面。
- 都心の一部区では子育て世帯・就労世帯の集積が続く—生活利便・教育・通勤近接が価格と賃料の説明変数として一段と強化。
1. 人口動態の「事実」が示す地価・賃料の方向感
① 東京一極と周辺選別:同じ首都圏でも勝ち負けが分かれる
総人口が増加したのは東京都と千葉県のみ。東京は+9万0632人で初の1400万人台に到達。千葉はわずかにプラス。他方、神奈川・埼玉含む多くの道府県は減少で、首都圏内でも「都心近接×生活利便×新陳代謝(再開発)」が勝ち筋である事実が改めて可視化されました。評価実務では、都心近接区における賃料成長率仮定をミクロに設定し、同じ市区内でも駅勢圏・学区・子育て支援度でセグメント別に弾き直す必要があります。
② 外国人居住の増勢:賃貸の「商品設計」とリーシング速度
外国人は全47都道府県で増加。東京・大阪・愛知・神奈川・埼玉の上位5都府県で過半を占めています。賃貸では、契約・入居審査・多言語案内・家具家電付き・短中期プランといった受け皿整備が空室期間短縮に直結。鑑定では、キャッシュフロー作成時に「外国人需要を取り込める仕様・運営」がある場合、リーシング期間短縮と賃料水準プレミアを裏付け資料とともに反映可能です。
③ 地方の自然減:家賃は横ばいでも「稼働率」と「出口」で毀損
自然減(出生<死亡)は過去最大。地方・周縁エリアほど、入れ替わり時のリーシング難やテナント属性の細りが顕著になりやすく、家賃が横ばいでも実効総収入(EGI)が毀損し、結果としてNOIと評価額が下押しされやすい構図です。出口利回り(還元利回り)は流動性ディスカウントを含めて一段と保守化(=上方修正)を検討。
2. 賃貸・区分・土地:タイプ別の実務論点
賃貸住宅(レジデンス)
- 都心コア:単身+共働きファミリーの二極。1DK/1LDKの「ワーク+暮らし」両立間取り、保育・学区・公園接近のファミリー型は賃料耐性が相対的に強い。想定空室率は駅勢圏別・築年別に分解。
- 郊外周縁:駅徒歩・バス便の分岐が稼働を左右。駐車需要の把握、原状回復・リフォーム回転速度の管理で空室損失を抑制。
- 地方中核:医療・大学・工業団地等の非可搬需要の有無が生命線。事業継続性の検証を裏付けにリーシング仮定を設定。
区分マンション(投資・自用)
- 投資用途:在庫回転・与信審査・多言語対応の運営体制が賃料・稼働に効く。短中期賃貸は賃料単価が上がる一方、稼働変動・運営費増をCFへ織込む。
- 自用・相続:人口減下でも都心の生活資本(教育・医療・交通)は価値の源泉。高層物件は修繕費・更新費の将来負担を長期計画で確認。
土地(戸建用地・再開発候補)
- 住宅地は「学区×保育×商業×医療」等の生活利便を点検し、用途最有効使用(HBU)の再検証を。再開発含意地は容積・前面道路・近隣計画の把握が先決。
- 地方の広大地は最低限、ライフライン・除雪・道路管理等の維持費用を割引率・利回りに反映し、流動性ディスカウントを明示。
3. DCFの見直しポイント(チェックリスト)
- トップライン:賃料成長率は「区・駅勢圏・築年・間取り」まで分解し、都心でもフラット設定を避ける。
- 空室・滞納:外国人増を踏まえ、受け皿整備の有無でリーシング期間仮定を差別化。
- 運営費:言語対応・家具家電・短期回転コストをケースに応じて上積み。
- CAP/Exit:地方・周縁は流動性ディスカウントを厚めに。都心コアはリスク要因(大規模修繕・供給増)を注記。
- シナリオ分析:人口・世帯構成・外国人受け入れの制度見通しを前提に、ベース/弱気/強気の3ケースを提示。
4. 自治体政策と市場:関係人口の活用は「運営現場」の手当ても同時に
地方の人口減に対して、移住一辺倒ではなく関係人口を広げる政策が広がっています。岐阜県飛騨市の取り組み「ヒダスケ」のように、地域の手伝いを通じて関わり手を増やす仕組みは、地元の需要側・供給側双方の厚みを生む試みです。こうした流れは観光立地のゲストハウス・二拠点居住用の賃貸・空き家利活用に波及する可能性があり、オペレーションと規約整備(短期賃貸・地域ルール)を伴走させることが重要です。
5. 日本人減×外国人増をどう評価に織り込むか(ケース別示唆)
ケースA:都心5km圏、駅徒歩5分、築10年・40㎡台中心のレジ
共働き世帯・インバウンド就労者の双方を取り込める設計なら、賃料成長率+0.1~0.3ptの上振れも合理化可能。空室期間は運営実績に応じて短縮。出口は再開発・生活インフラの強化が続く限り大きく拡げないが、将来修繕負担の開示が前提。
ケースB:地方中核駅から車15分、築25年・木造アパート
家賃はフラットでも稼働率下振れが主因でNOI減少。キャップレートは+0.3~0.8ptの保守化レンジを検討。出口は流通参加者の細りを想定し、売却期間の長期化や価格弾力性を備えたバッファ設定が必要。
6. オーナー・担当者向け「今すぐやること」
- 入居ターゲットの再定義:単身/共働き/外国人就労者—現入居者属性とズレていないか。
- 商品設計の見直し:家具家電・多言語案内・短中期プランの導入余地。
- リーシングKPIの可視化:反響〜内見〜契約の歩留まり、退去理由の定量把握。
- 修繕計画のアップデート:高層・大規模は将来費用の見直しと積立妥当性の点検。
- 出口戦略の明文化:人口トレンドに沿った想定保有年数・売却条件・価格レンジ。
データ出典・参考
・総務省「住民基本台帳に基づく人口」(2025年1月1日現在)に関する報道:日本人▲90万8574人(最大減)、外国人367万7463人(最多)。東京都は日本人増、総人口は1400万人超、千葉県も増。他の45道府県は減少、外国人は全都道府県で増加。
よくある質問(不動産鑑定士の見解)
Q. 人口減でも都心の価格は上がりますか?
A. 都心コアは「雇用・教育・交通」という生活資本の厚みがあり、世帯の再集中が続く限り賃料・価格の耐性は相対的に強いです。ただし区・駅勢圏・供給計画で温度差が大きいため、賃料成長率や出口利回りの仮定は物件別に弾き直します。
Q. 外国人増はどの程度CFに効きますか?
A. 受け皿(審査・契約・多言語・家具付き等)次第です。運営面の整備がある場合、空室期間短縮と募集賃料の微増が合理化しやすく、DCFのトップラインと空室損失に反映し得ます。
Q. 地方の賃貸で守るべき指標は?
A. 稼働率と出口利回りです。家賃維持でもEGIが毀損しやすいため、リーシングKPIの徹底管理と、流動性ディスカウントを織り込んだ出口前提が肝要です。
Q. 区分マンションの相続で注意点は?
A. 高層物件は将来修繕の単価感応度が高く、保有コストの不確実性が価格形成に影響します。長期修繕計画と積立の健全性を必ず確認しましょう。
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