公益社団法人 全国宅地建物取引業協会連合会(全宅連)・不動産総合研究所が、2025年10月時点の市況感をまとめた「不動産価格と不動産取引に関する調査報告書(第39回 不動産市況DI調査)」を公表しました。現場の宅建業者が感じる「いま(10月)」と「3か月後(来年1月)」の見通しを、DI(ディフュージョン・インデックス)で示したものです。
出展:全宅連「不動産価格と不動産取引に関する調査報告書 ~第39回 不動産市況DI調査~」
1. DI(ディフュージョン・インデックス)の見方
上昇・横ばい・下落の回答を指数化し、+100(全員が上昇)~-100(全員が下落)で表す指標です。0よりプラス=上向き、0よりマイナス=下向きの体感を意味します。
2. 主要結果(かんたん要約)
- 土地価格(全国):10月の現状DIは+11.5と「上昇の実感」。3か月後は+4.1へ鈍化の予想。
- 地域差が拡大:
・近畿:現状+20.6(強い)→見通し+1.5(一服予想)
・関東:+10.2→+8.6(上昇は続くが鈍化)
・中部:+14.0→+8.0
・中国・四国:+10.0→+13.3(むしろ強含み)
・北海道・東北・甲信越:+6.2→-2.1(弱含み)
・九州・沖縄:+5.0→-10.0(下押し予想) - 中古・新築の住宅売買:価格DIは総じてプラス域にあるが、取引件数DIは弱め(伸び悩み)。
- 中古マンション:価格DIはプラス継続、件数は横ばい~やや弱め。在庫と価格のせめぎ合い。
- 賃貸住宅:賃料DIはプラス、空室率DIは改善(マイナス方向)の傾向で、需給はタイト。
- 事業用賃貸(オフィス・店舗等):賃料・成約件数は地域でまちまち。空室率DIは改善方向(空室が減る方向)にある地域も。
結論:価格はまだ上向きだが、勢いはやや鈍化。地域・用途の二極化が進んでいます。
3. 不動産鑑定士の見解:市況の「体温」は高いが、微熱に下がりつつある
DIがプラス=“上昇している物件の割合が多い”ことを示します。ただし、先行きのプラス幅が縮む地域が目立ち、足元の成約件数DIも力強さに欠けます。価格は強いが、動きは重たくなりつつある——これが今回の読みどころです。背景には、建設コスト高・金利上昇・家計負担などの制約があります。
4. これからどう動く?(立場別アドバイス)
買い手(マイホーム)
- 価格のモメンタムは弱まりつつも下がり切ってはいない。金利の上振れ(+0.5%・+1.0%)を想定し、返済比率が手取りの25~30%内に収まるかを再試算。
- 中古は性能と履歴(インスペクション・修繕履歴・耐震)で選別。数字と書類で不安を潰せる物件は交渉も進みやすい。
- 地域差が大きい。近畿・関東=強い/北海道・東北・甲信越・九州=足元は慎重という見方を参考に、現地の成約事例を重視。
売り手(住み替え・資産売却)
- 価格はまだプラス圏。ただし引き合いは選別気味。適正価格の設定と初動の見せ方(資料整備)で時間を短縮。
- 売却前の軽微な不具合の是正(雨漏り・設備)と情報の可視化は値引きを抑える効果が高い。
- 金利上昇前に条件がまとまると安心。買い替えは先売り・先確保の順序を検討。
賃貸オーナー
- 居住用は賃料強含み×空室改善。ただし、省エネ・遮音・ネットなどの小さな投資が成約スピードを左右。
- 事業用は立地と用途で差。小区画化・共用改善・フリーレントの設計で稼働を高める。
- 修繕費・更新費の上振れに備え、修繕積立の見直しを。省エネ改修は中長期のNOI改善に有効。
5. 地域の“生の声”から見えること
- 北海道:「新築5,000万円超が普通で『買いたくても買えない』人が多い」「北広島は球場(エスコン)効果で上昇」
- 東京:「港区でもバブル感」「外国人の都心ファミリーマンション購入が価格押し上げ要因」
- 石川:「賃貸は復興事業者で底上げ、中古は再建需要」「土地は公費解体後の売却希望が増」
- 静岡:「売買の二極化が顕著、賃貸は戸建て志向へ訴求が好調」
全国一律ではなく、“地場要因”が市況を左右していることがわかります。購入も売却も、まずは足元の成約事例を必ず確認しましょう。
6. まとめ:価格はまだ強い。でも勢いは鈍化。焦らず、家計と現地で判断を
今回のDIは、「価格は上向きだが、伸びは緩やかに」というメッセージです。地域差・用途差が大きいので、全国ニュースより自分の街のデータと家計の持続性を優先。金利ストレス試算と、性能・履歴で選ぶ視点が、後悔しない不動産選びの近道になります。
出展:
公益社団法人 全国宅地建物取引業協会連合会/不動産総合研究所「不動産価格と不動産取引に関する調査報告書(第39回 不動産市況DI調査)」(調査期間:2025/10/7~10/21、n=182)

