国土交通省の懇談会(第7回「建築分野の中長期的なあり方」)の議事概要が公表されました。ポイントは、新築だけでなく既存建物(ストック)の活用を主役に据えること、AIや新素材など新技術の活用と、基礎技術の継承の両立、そしてまちづくりの「まちじまい(縮退)」「生業(なりわい)」まで視野に入れ、建物を使う人・投資する人・所有する人も建築の担い手に含めていく、という方向です。
出展:国土交通省「第7回 建築分野の中長期的なあり方に関する懇談会 議事概要」(2025/9/16)
1. これからの建築は「つくる」+「活かす」
議論の柱は次のとおりです。
- ビジョンの目的:投資の予見性を高め、公共・民間が人材・設備・時間をどこに配分するかの見通しを持てるようにする。そのうえで、より良い社会資本(住まい・街)をつくるという目的のために、関係者が全体像を共有して役割を果たす。
- 担い手の拡大:施工者・設計者だけでなく、建物を利用・所有・投資する人も建築分野の担い手。ストック活用社会では住民・オーナー・管理組合の出番が増える。
- 新技術×基礎技術:AI・新素材・新工法を取り込む一方で、基礎的な建築技術の継承が不可欠。AIの判断を評価・説明できる人材育成が必要。
- まちづくりとの接続:全国一律ではなく、地域の実情に応じて「まちじまい(縮退)」「生業」の視点を盛り込む。公共が試行の場を提供、民間の技術実装を後押し。
2. 不動産鑑定士の見解——暮らしと資産に効く「3つの変化」
(A)価値の物差しが“新築年数”から“性能・履歴”へ
断熱・耐震・省エネ・維持管理の実績と記録が、中古の価格と流通性を決める比重を高めます。丁寧に手入れされた家が正しく評価される方向です。
(B)「直して使う」が当たり前に
リフォーム・リノベの裾野が広がり、既存不適格(検査済証なし等)でも、適法化・用途変更・部分是正などの選択肢が整っていきます。住み替えでも「中古×性能向上」の比較が現実解になっていきます。
(C)街単位の意思決定が増える
高齢化や人口減少のエリアでは、建替えだけでなく、縮退や用途転換を含む合意形成がテーマに。学校・商店・交通などの公共サービスとセットで、住まいの選び方が変わっていきます。
3. 生活者のアクション(買う・売る・持ち続ける)
買う(新築・中古)
- 性能と履歴:インスペクション報告、耐震診断/補強、断熱改修(窓・断熱材)、修繕履歴・図面の有無を確認。
- 将来コスト:10~20年の総費用(ローン+税+管理修繕+リフォーム)で比較。AI査定だけに頼らず、現地の光熱費や実測温熱もチェック。
- まちの将来:立地適正化計画、地区計画、公共施設の統廃合、交通(BRT・オンデマンド)を役所のHPで確認。
売る(住み替え)
- “見える価値”づくり:小さな不具合是正+施工写真・保証書・履歴をファイル化。省エネ・耐震の根拠が揃うと値引きが減り、成約が早い。
- 用途の柔軟性:間取り可変、在宅ワーク対応、用途変更の余地も訴求点に。
持ち続ける(賃貸・自用)
- 小規模改修の優先順位:雨漏り・給排水→断熱・窓→換気の順で。体感改善と光熱費削減の両立を狙う。
- データ化:図面・写真・履歴をクラウド保存。将来の売却・賃貸で“情報の非対称性”を減らす。
4. AI・新素材時代の注意点
- AIの限界:AIの自動判定は便利ですが、法適合・地盤・劣化など「現地・専門家の目」が必要。判断理由の説明ができる体制が重要です。
- 新素材・新工法:メンテナンス周期、部材の入手性、保険・査定での取り扱いを確認。第三者評価・認証があると安心です。
- 人材の価値:職人・管理技術者の不足が続く見込み。実績ある事業者の選定、長期の保守契約を意識しましょう。
5. まちと住まいのチェックリスト(保存版)
- 用途地域・地区計画・立地適正化計画(将来の街のルール)
- ハザード+避難動線(昼・夜の徒歩ルートを実測)
- 建物の性能・履歴(耐震・断熱・修繕記録・検査済証)
- AI査定の根拠(比較事例・補正の考え方・現地差)
- 20年の総コスト(金利ストレス、修繕・更新費、保険、税)
6. まとめ
国の議論は、「良いものを長く使う社会」への本格的な舵切りです。これからの不動産は、性能・履歴・まちの将来像が価格を左右します。AI等の新技術は強い味方になりますが、最後は人の目と説明力が安心をつくります。住まい手・所有者・投資家として、記録を残し、情報を開示し、数字で比較する――この3点を実践していけば、あなたの資産は「選ばれるストック」になります。
出展:
国土交通省「第7回 建築分野の中長期的なあり方に関する懇談会 議事概要」(2025/9/16)

