大阪市は、国の制度である「特区民泊」の新規申請の受け付けを停止する方針を決めました。背景には、騒音・ごみ出し・1泊滞在などに関する苦情の増加があります。営業中施設への指導も強化し、「迷惑民泊根絶チーム」を立ち上げる予定です。
出展:朝日新聞デジタル「『特区民泊』の新規受け付け、大阪市が停止へ 住民らの苦情相次ぎ」(2025/9/30)
1. 何が決まったの?
大阪市は、特区民泊の新規申請の受付をいったん止める方針です(時期は11月までに判断)。すでに準備中の施設もあるため、停止までの猶予期間を設けます。課題が解決すれば、将来は再開の可能性もあります。また、営業中施設に対しては、立入調査や認定取消も含む指導を強化します。
特区民泊の特徴(ポイント)
・旅館業法の一部が適用除外(フロント義務なし など)
・民泊新法の180日制限がない(ただし2泊3日以上の宿泊者のみ)
・全国8自治体で導入、うち約9割(6696施設・7月時点)が大阪市に集中
2. なぜ今、停止方針なの?(苦情の実態)
大阪市には前年度、特区民泊に関する399件の苦情が寄せられました。最も多いのは「1泊滞在(原則不可)」196件。次いでごみ問題(103件)、深夜の騒音(87件)などです。観光の回復により滞在者が増える一方、住居系の地域で暮らしとの摩擦が生じているのが現実です。
停止方針が報じられる中、「駆け込み申請」も殺到。直近5か月は毎月200件超、未処理の申請は1000件以上に膨らみ、事務の遅延も起きています。
3. 不動産鑑定士の見解:暮らし・市場・収益への影響はこうなる
(1)住環境は改善方向
新規の供給が止まれば、深夜の騒音・ごみ出し・短期滞在の出入りといった生活影響は収まりやすくなります。分譲マンションの管理秩序の回復にもプラスです。
(2)宿泊供給は「ホテル・旅館」に回帰
特区民泊の伸びが止まると、需要はホテル・旅館へ戻ります。客単価や稼働が高い繁華街・主要駅周辺では、ホテルの稼働・賃料(テナント賃料)の下支えにつながるでしょう。
(3)民泊投資は「規制リスク」が顕在化
短期滞在を前提にした高利回りの事業計画は、特区民泊の停止で見直しが必要です。既存施設は指導強化により、稼働率・レビューの悪化や認定取消のリスクが増します。普通賃貸(マンスリー・ウィークリー)への転換も選択肢ですが、利回りは下がる可能性が高いです。
(4)地価・賃料は「過熱の沈静化」
民泊需要を見込んだエリアでの賃貸料の過度な上昇や、民泊向け区分の売買価格の過熱は落ち着きやすくなります。結果として、居住者の入居しやすさが戻る効果が期待できます。
4. すでに特区民泊を運営・所有している方へ(いまできる対策)
- 法令と認定条件の再点検:2泊要件、用途地域、避難経路、消防・衛生、ゴミ管理、騒音対策。立入調査を前提に不足を補いましょう。
- 運営ルールの明文化:夜間の静粛時間、ゴミ出し方法、チェックイン方法(対面/スマートロック)を多言語で掲示。レビュー対策にも有効です。
- 事業計画の見直し:稼働率・単価・清掃費・仲介手数料を保守的に再試算。ミドルステイ(1〜3か月)等の代替プランを検討。
- 出口戦略の用意:普通賃貸への転用、売却の可否(管理規約や建物用途制限)を確認。賃料相場・成約事例で目線を合わせておくと安心です。
5. これから民泊・短期宿泊を考える人へ(最初に確認する3点)
- 用途地域と条例:その場所で民泊が可能か、時間・日数制限は何か。
- マンションの管理規約:区分所有建物では短期賃貸禁止が一般的。規約違反はトラブルのもとです。
- 騒音・ごみ・出入口:隣接住戸との距離、ゴミ置場の運用、搬入経路。生活音・生活導線の設計が肝心です。
6. 住む人・訪れる人・働く人のバランスを取る
観光は街を活気づけますが、夜間の静けさや生活ルールが守られなければ、住む人の満足度は下がります。今回の停止方針は、受け入れ態勢を整えて再開するための“ブレーキ”です。暮らしの質を守りながら、観光の恩恵を広げるには、ルールの明確化・迅速な指導・適正な運営が不可欠です。
7. まとめ
大阪市の動きは、オーバーツーリズム対策の一環です。投資の視点では、短期宿泊の規制リスクが改めて意識されます。住まいの視点では、生活環境の安定が期待できます。いずれにせよ、現地の生活実感とルールを確かめてから意思決定を。数字の利回りより、持続できる運営と暮らしの安心が、長い目で見て価値を生みます。
出展:
朝日新聞デジタル「『特区民泊』の新規受け付け、大阪市が停止へ 住民らの苦情相次ぎ」(2025/9/30)