近年、事業承継や離婚、相続などの案件において、不動産をめぐる争点が増加傾向にあります。特に30代の若手弁護士は、不動産に関する深い知識をまだ十分に身につけていないケースもあり、不動産の価値評価で頭を悩ませる場面も多いのではないでしょうか。
そこで活用したいのが、不動産鑑定士による不動産鑑定評価です。鑑定評価は、不動産価値を適正かつ客観的に把握するうえで不可欠な手段となり、示談交渉や訴訟において強力な根拠資料となります。本記事では、不動産鑑定評価が若手弁護士の皆様にどのように役立つのか、具体的なメリットや依頼の流れ、注意点などを詳しく解説します。
不動産鑑定評価の基本と弁護士が把握すべきポイント
不動産鑑定評価とは、不動産鑑定士という国家資格者が不動産の価格を専門的に査定し、書面(鑑定評価書)として証明するものです。法令に基づいて客観的な根拠を示すため、訴訟や交渉の場面で信頼性を高める大きな役割を果たします。
弁護士の業務においては、特に財産分与や遺産分割、損害賠償をめぐる裁判などで、不動産の価値が重要な争点となることが多々あります。単なる路線価や固定資産税評価額だけでは、必ずしも実勢価格を反映していないことがあり、依頼人にとって不利な評価がなされる場合も否定できません。
以下では、鑑定評価が具体的にどのように役立つのか、弁護士の視点から整理していきます。
1. 証拠資料としての強力な根拠
訴訟や調停の場面で、不動産の評価に関する主張を裏付けるためには、客観的かつ公的な信頼を得られる書面が欠かせません。その点、不動産鑑定評価書は国家資格者の責任のもと作成されるため、裁判所や対立当事者に対して強い説得力を持ちます。
たとえば相続争いの場面で、各相続人が別々に主張する価格がバラバラの場合でも、鑑定評価書があれば1つの公平な基準として利用できるため、早期に解決へ導く手段となります。
2. 依頼人の利益保護とリスク回避
固定資産税評価や路線価を基にして単純に不動産価値を算出してしまうと、実勢価格とかけ離れるリスクがあります。実勢価格より高く評価されれば、依頼人の税負担が増えてしまったり、示談交渉で不利になる恐れもあります。
一方で実勢より著しく低く評価すると、相手方から不当な主張だと見なされ、交渉が難航する原因にもなりかねません。不動産鑑定評価を活用することで、適正かつ根拠のある価格を示しつつ、依頼人の正当な利益を守りやすくなります。
3. 専門知識不足をカバーできる
若い弁護士の中には、不動産分野を専門としていない、あるいは経験が浅い方も多いでしょう。しかし不動産トラブルは多岐にわたり、一般的な民事案件に付随して発生することも少なくありません。
不動産鑑定士の協力を得ることで、市場性や地域特性を踏まえた評価を補強材料として提供してもらえるため、弁護士側の知識不足をカバーし、依頼人からの信頼を得やすくなります。
弁護士が不動産鑑定評価を活用すべき具体的なケース
不動産に関わる案件は多岐にわたりますが、以下に代表的なケースを挙げてみます。若手弁護士の皆様が日々の業務で遭遇しやすい場面といえるでしょう。
1. 離婚による財産分与
婚姻中に取得した不動産をどう評価するかは、財産分与の最も重要なポイントの一つです。不動産鑑定評価書を用意しておけば、根拠のある財産分与額を提示でき、公平感を演出しやすくなります。結果として早期に協議をまとめられる可能性が高まります。
2. 相続・遺産分割
相続財産の中に不動産が含まれると、遺産分割において評価額が大きな争点となりがちです。相続人が複数いる場合は特に、各人が主張する金額が異なることで調停や審判にまで発展するケースも少なくありません。
このようなときに、公的な不動産鑑定評価書があれば、協議を円滑に進める裏付けとして活用できます。
3. 企業法務や事業承継
企業オーナーが事業用不動産を保有している場合、M&Aや事業再編、事業承継のタイミングで不動産の評価が重要になります。
弁護士が企業法務を担う際に、不動産の正確な評価を提示することで、対外的な交渉力を高めたり、クライアントとの信頼関係を構築できるメリットがあります。
4. 損害賠償請求・共有物分割請求
不法行為や契約不履行による損害賠償請求で、不動産の価値が損害額の算定基準となるケースもあります。また、共有状態にある不動産を分割する際にも鑑定評価は欠かせません。
不動産鑑定士の評価を証拠資料として提出することで、裁判所に対する説得力が高まり、弁護士として説得力ある主張を組み立てやすくなります。
不動産鑑定評価のプロセスと弁護士が知っておくべきこと
不動産鑑定評価は主に以下のプロセスで進みます。弁護士としては、どの段階でどんな資料が必要になるのか把握しておくことで、依頼人とのやり取りや証拠収集がスムーズに進むでしょう。
ステップ1:事前ヒアリングと資料の準備
鑑定士に依頼するにあたり、まず不動産の登記情報や固定資産税通知書など基本的な資料を揃えます。依頼人が把握している情報(購入時期、購入価格、登記情報、賃貸契約の有無など)を早めに収集し、鑑定士へ提供することで評価の精度が高まります。
ステップ2:現地調査・マーケット調査
鑑定士が現地を訪れ、不動産の形状や周辺環境を詳細に確認します。同時に、近隣の取引事例や賃料相場など、市場動向の情報を集め、適切な評価手法を選定します。
弁護士側としては、現地調査の日時や立ち会いが必要かどうか、鑑定士と依頼人とのスケジュール調整に配慮するとスムーズです。
ステップ3:評価手法の選択と算定
鑑定士は、原価法・取引事例比較法・収益還元法など複数の評価方法を組み合わせて、最も適切な価格を算定します。
弁護士は最終的な評価額の根拠を理解し、裁判所や相手方に対する説明資料として活かすため、鑑定士の説明をしっかりヒアリングしましょう。
ステップ4:鑑定評価書の受領と活用
最終的に作成される鑑定評価書には、評価の目的・依頼人・評価手法・価格の根拠などが詳細に記載されます。
受領後は、訴訟や交渉の際に証拠書類として提出するほか、依頼人への説明資料としても活用できます。依頼人にとって難解に感じる場合もあるので、弁護士として分かりやすく解説してあげると良いでしょう。
鑑定評価のコストと選び方のポイント
不動産鑑定評価には当然費用がかかりますが、的確な評価によって交渉が有利になったり、係争が短期間で解決すれば、依頼人にとっては結果的にコスト以上のメリットがあります。弁護士が依頼を検討する際、以下の点に注意すると良いでしょう。
1. 依頼する鑑定士の実績と専門分野
不動産鑑定士にも専門分野や得意領域があります。住宅系なのか、オフィス・商業施設に強いのか、または農地や森林など特殊な物件に詳しいのかを事前に確認することが大切です。
また、過去の裁判所提出用鑑定の実績や、弁護士・税理士など他士業との連携実績を持つ鑑定士であれば、スムーズな対応が期待できます。
2. コミュニケーション力と説明の分かりやすさ
若い弁護士にとっては、不動産関連の専門用語や評価手法をすべて理解するのは簡単ではありません。依頼する際は、鑑定士のコミュニケーション力も重要な判断材料となります。
質問に丁寧に答えてくれ、必要な資料や手続きについてわかりやすく説明してくれる鑑定士であれば、依頼人とのやり取りもスムーズになるでしょう。
3. 費用対効果を総合的に判断する
不動産鑑定評価の費用は数十万円〜数百万円程度と幅があります。依頼内容や物件の規模、評価の難易度によって変動するため、目的と期待する成果を明確にしたうえで見積もりを取りましょう。
相続で高額な遺産を扱う場合や、離婚で大きな財産分与が絡む場合、あるいは訴訟金額が大きい場合など、最終的な成果と比較して費用を検討することで、依頼人への説明も納得感のあるものになります。
まとめ
不動産鑑定評価は、若手弁護士にとって不足しがちな不動産知識を補い、より強固な法的主張を展開するための強力な武器となります。
・裁判所や相手方に対する説得力の高い証拠資料として
・依頼人の利益を正しく守るための根拠として
・弁護士自身の不動産知識不足をカバーするための専門的サポートとして
多様な局面で活用できるのが不動産鑑定評価の魅力です。
適切な鑑定士を選び、十分なコミュニケーションのうえで鑑定評価書を取得すれば、弁護士としての業務品質を大きく向上させられるでしょう。ぜひ本記事を参考に、不動産案件に強くなる一歩を踏み出してみてください。
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