税理士がクライアントに不動産鑑定評価を斡旋する必要性とは
相続財産の評価は通常、「財産評価基本通達」に基づき進められます。しかし、この画一的な評価方法だけでは、実勢価格と大きく乖離する可能性があることをご存知でしょうか。
特に不動産は個別性が高く、立地や利用状況によって評価額に差異が生じることが多々あります。そこで、不動産鑑定士による不動産鑑定評価を活用することで、クライアントに対してより正確かつ納得度の高い評価を提示できるようになります。
本記事では、不動産鑑定評価に知識の少ない税理士の方がクライアントを説得するためのポイントや、不動産鑑定士の果たす具体的な役割について解説します。
財産評価基本通達と不動産鑑定評価の違い
財産評価基本通達は、相続税や贈与税を算出する際の一般的な評価ルールを示したものです。路線価や固定資産税評価額を基に算出するため、手続きが比較的シンプルという利点があります。一方で、実際の市場性を十分に反映しきれない場合がある点が指摘されています。
一方、不動産鑑定士の鑑定評価は、不動産を取り巻く多角的な要素(立地条件、権利関係、地域の需給、建物の築年数や構造など)を総合的に検討したうえで価格を算定します。これは単なる数値的基準だけでなく、公的資格者による専門的分析が加わるため、税務当局に対する説得力やクライアントの納得感が大きく向上します。
クライアントを説得するための主なポイント
税理士がクライアントに不動産鑑定士による鑑定評価を提案する際には、以下のような点を具体的に説明すると理解を得やすくなります。
1. 適正な相続税の算出とリスク回避
財産評価基本通達に則った評価額だけを用いた場合、実勢価格よりも過大に評価され、相続税を本来より多く払ってしまう可能性があります。逆に、過小評価になり、税務調査で否認された場合には、追徴課税というリスクも生じます。
不動産鑑定評価は、個別性を加味した精緻な評価が可能です。クライアントの不動産が特有の条件を持ち、一般の指標とは異なる価値を有している場合、鑑定評価書が強力な根拠として機能し、リスク回避につながります。
2. 相続人間の争いを未然に防ぐ
相続では、不動産をめぐる相続人同士の意見対立が多いものです。「土地の評価額が高すぎる」「低すぎる」といった不信感から紛争が長期化し、税理士が苦労するケースも少なくありません。
そこで、不動産鑑定士が作成する評価書を提示すれば、中立かつ公的資格者による客観的な評価として受け止められやすく、相続人間の合意形成に役立ちます。税理士としても、スムーズな遺産分割が可能になることで、顧客満足度の向上につなげられるでしょう。
3. 特殊な不動産の評価に対応可能
農地や山林、借地権や底地など、一般的な路線価では評価が難しい特殊不動産を抱えるクライアントも少なくありません。評価の難易度が高い案件ほど、財産評価基本通達だけでは実態を十分反映できない恐れがあります。
不動産鑑定士は、それぞれの特殊要素を考慮し、最適な評価手法を用いて価格を算定できます。財産評価に精通していない税理士にとっても、不動産鑑定士との連携は強力な武器となるでしょう。
4. 税務当局へのアピール強化
相続税申告において、税務当局が重視するのは評価額の根拠です。路線価との差異が大きい場合や、特殊事情による減額の主張がある場合、根拠を明確に示さなければ税務調査での指摘が入る可能性が高まります。
不動産鑑定評価書は、公的資格者が社会的責任をもって実施した評価結果であることを示すもの。税務署に対する説得力が高く、結果的にクライアントの納税リスクを下げる大きな利点があります。
不動産鑑定士が果たせる具体的な役割
不動産鑑定士は、相続財産の評価だけでなく、さまざまなシーンで活躍できます。税理士が不動産鑑定士と連携することで、より質の高いサービスをクライアントに提供できます。
1. 不動産の現地調査と周辺市場の分析
鑑定士は、対象不動産の現地調査を通じて土地や建物の状態、近隣の取引事例、地域の需給動向などを詳細にリサーチします。これらの情報を基に、原価法・取引事例比較法・収益還元法などの手法を組み合わせて評価額を算定します。
税理士が把握しにくい物件個別の特徴(都市計画法上の制限、接道条件、建ぺい率・容積率の余剰分など)も織り込めるため、より正確な評価が期待できます。
2. 税務と関連する法的問題の助言
相続税の評価は税理士の専門領域ですが、不動産鑑定士は不動産に関する幅広い法令にも精通しており、相続登記や境界問題など周辺の法的問題についても助言を行うことができます。
また、必要に応じて弁護士や司法書士とのネットワークを活用し、遺産分割協議や権利調整などのサポートを行うケースもあるため、ワンストップでクライアントの悩みを解決しやすくなるでしょう。
3. クライアントとのコミュニケーションサポート
不動産鑑定士が作成する評価書は専門的な内容が多く、クライアントが理解しづらい場合もあります。しかし、鑑定士が直接クライアントに説明することで、評価額の根拠や減額要素などをわかりやすく伝えられます。
税理士としては、鑑定士との共同でクライアント対応を行うことで、不動産評価の説得力を高め、クライアントの信頼を得ることにつながります。
4. 相続税申告後の税務調査対策
不動産鑑定評価書を添付した相続税申告に対しては、税務署の調査リスクが相対的に低いとされています。もし税務調査が行われても、鑑定評価書があれば税理士は適正評価の正当性を説明しやすいメリットがあります。
仮に評価について指摘を受けた場合でも、鑑定士とともに見解を示すことで、主張の根拠を明確化し、追徴課税を回避または軽減できる可能性が高まります。
不動産鑑定評価を斡旋する際の流れと注意点
税理士がクライアントに不動産鑑定評価を斡旋する際には、以下の手順とポイントを押さえておくとスムーズに進められます。
ステップ1:物件情報の収集と事前相談
まずはクライアントから物件の基本情報を入手し、不動産鑑定士に大まかな見積もりや対応可能なスケジュールを確認します。農地や借地権など、評価が複雑なケースほど早めに鑑定士へ相談するのが重要です。
ステップ2:見積もり提示と依頼意思の確認
不動産の所在地や種類、調査範囲に応じて鑑定費用は変動します。クライアントに費用対効果を理解してもらうためには、「鑑定評価書があることで得られるメリット」と「想定される費用」について具体的に説明しましょう。
相続税の節税額や将来的なトラブル回避の観点からメリットが大きい場合、クライアントも納得しやすくなります。
ステップ3:現地調査と資料提供
鑑定士は現地調査に加え、登記簿謄本や公図、固定資産税評価証明書など各種資料を必要とします。税理士が取りまとめてスムーズに提供できる体制を整えておくと、クライアントにかかる負担を軽減できます。
ステップ4:鑑定評価書の完成と説明
最終的な評価額とその根拠が記載された鑑定評価書が完成したら、クライアントへ共有し税理士・鑑定士双方が説明にあたると効果的です。
評価書の内容を明確に理解したうえで、相続税の申告書に適切に反映し、必要に応じて納税シミュレーションを行っておきましょう。
まとめ
相続財産の評価において、財産評価基本通達による一律的なアプローチだけでは、物件の個別性や特殊事情を反映しきれない可能性があります。税理士が不動産鑑定士との連携を図ることで、クライアントにとって納得感のある評価や税務上のリスク軽減を実現できるのです。
・公的資格者が作成する鑑定評価書は税務署や相続人間への説得力が高い
・特殊不動産や個別要因を正しく評価でき、過大・過小評価を防ぐ
・税務調査への備えとしても有効な根拠資料となる
これらのメリットを具体的に説明し、費用対効果を明確に示すことで、クライアントをスムーズに説得することができます。
今後の業務の質を向上させるためにも、ぜひ不動産鑑定士との協力体制を築き、より高度な相続対策を提供していきましょう。
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