「歴史性×国際競争力×大規模複合」
築地市場跡地(都保有約19万㎡)で、三井不動産・トヨタ不動産・読売新聞グループ本社が基本計画を公表。
扇形屋根の屋内多目的スタジアム(約5万人・延床約18万㎡)を核に、ホテル・オフィス・マンション・商業など9棟・最高約210m、総事業費約9,000億円。2026年度に基盤整備着工、2028年度に主要建物着工、2030年代前半開業、2038年度までに全体完了予定。
不動産鑑定士の立場から、価値形成・収益構造・主要リスク・鑑定実務の留意点を整理します。
- プロジェクトの骨子(用途構成・タイムライン・投資規模)
- 価値ドライバー(立地・機能ミックス・歴史性・水辺活用)
- スタジアム核の収益モデルと非イベント日の活用視点
- 建設費・金利・需要変動など主要リスクと感応度
- 鑑定(DCF/直接還元)での前提設定・チェックポイント
■ 目次
- 1. 事案の要点(報道ベースの整理)
- 2. 価値ドライバー:築地ならではの強み
- 3. 収益モデル:スタジアム核の考え方
- 4. リスクと感応度:事業・金融・需給
- 5. 鑑定実務のポイント(DCF/還元法)
- 6. 都市波及と外部(負)外部性への配慮
- 7. デューデリジェンス・チェックリスト
- Q&A(よくある質問)
- まとめ:歴史性を価値に変える設計
1. 事案の要点(報道ベースの整理)
- 場所・規模:築地市場跡地(東京都中央区、都保有約19万㎡)。
- 用途・棟数:スタジアム・ホテル・オフィス・マンション・商業等9棟、最高約210m。
- スタジアム:屋内全天候型・収容約5万人、延床約18万㎡、屋根は旧市場由来の扇形モチーフ。
- その他機能:国際会議場、医療連携のR&D施設、VIP受入れホテル2棟、海外高度人材向けタワーマンション、隅田川沿い舟運桟橋。
- 投資規模:総事業費約9,000億円。
- 工程:2026年度 基盤整備着工 → 2028年度 主要建物着工 → 2029年度 フードホール/シアターホール先行開業 → 2032年度 オフィス棟除く7棟完成 → 2030年代前半開業 → 2038年度 全体完了。
2. 価値ドライバー:築地ならではの強み
- 都心立地×水辺回廊:銀座・汐留・晴海・豊洲の結節、舟運導入で来街動線の多重化。
- 大規模複合の相互補完:スタジアム(集客)×ホテル(宿泊)×MICE(平日稼働)×商業(滞在消費)×住宅(定住/国際人材)による需要の時間分散。
- 歴史のストーリー化:扇形屋根で「築地の記憶」を可視化。場所の固有性はブランド価値に資する。
- VIP/高度人材対応:ハイグレードホテル・居住で国際イベントや企業誘致の受け皿を整備。
3. 収益モデル:スタジアム核の考え方
スタジアムはイベント収益に季節性があり、非イベント日の活用が価値を左右します。鑑定では以下を整理します(個別契約・計画に依存)。
- イベント種別と日数想定:スポーツ・コンサート・展示・地域イベント等の年次配分。
- 収益ライン:会場使用料、F&B、広告・命名権、付帯商業、MICE連携。
- 平日稼働の仕組み:シアターホール・会議場・企業利用との連携で通年化。
- アクセス分散:地下・地上動線と舟運の併用で来場ピークの平準化(運営コストと近隣影響の抑制)。
4. リスクと感応度:事業・金融・需給
- 建設コスト・工期:資材・労務の高止まり、複合大規模の工程リスク。コスト上振れ感応度を設定。
- 金利環境:長期資金の調達条件次第でWACC上昇。利上げ時は出口利回りの保守化を検討。
- 需要変動:オフィス需給の構造変化、観光・MICEの国際需要の振れ、居住の価格耐性。
- 運営リスク:安全・騒音・交通混雑への対策、近隣合意形成(イベント運営の規律)。
- 水辺リスク:隅田川沿いの水害・高潮に対するBCP・設備配置の冗長化。
5. 鑑定実務のポイント(DCF/還元法)
- 用途別CFの分解:スタジアム・ホテル・オフィス・住宅・商業を別ラインで建付け(売上/運営費/CAPEX/リザーブ)。
- 段階開業の反映:先行開業(フードホール/シアター)→順次竣工のフェーズDCF(工期中キャッシュと竣工後CFを分離)。
- 土地条件の把握:都保有地の権利形態(定期借地等)・地代改定の条項は割引率・残余価格に直結。
- 割引率/還元利回り:複合用途・スケジュール・調達構成を織り込んだリスクプレミアを加味。
- 出口設定:各アセットの安定化年・想定利回り・再投資CAPEXのメンテナンス性を明記。
6. 都市波及と外部(負)外部性への配慮
- 波及:来街者増による周辺地価・賃料の上方圧力、水辺動線整備による回遊性向上。
- 負外部性:騒音・交通ピーク・イベント時の生活影響に対し、運営ルール・モニタリングの設計が不可欠。
- 歴史資源の継承:扇形デザインなど「文脈」を活かすことで、場所価値の持続性を強化。
7. デューデリジェンス・チェックリスト
- 権利形態(借地/譲受)と期間・改定条項・再取得条件。
- 用途別の賃料/単価仮定、事前予約・プリリースの状況。
- スタジアムのイベントカレンダー想定と非イベント日の収益計画。
- CAPEX見積(工事費/インフラ負担/BCP対策)と上振れバッファ。
- 資金調達構成(自己資本/借入/その他)と金利感応度。
- 段階開業に伴うCFギャップのつなぎ資金・リザーブ設計。
- 水辺BCP(電源・ポンプ・避難計画)、環境認証方針。
- 交通対策(公共交通・舟運・歩行者動線)と近隣合意形成。
- 出口戦略(保有/売却/REIT組入)と利回りレンジの根拠。
- ブランド/地域連携(食の発信、医療R&D、観光)のKPI。
Q&A(よくある質問)
◆ Q1:スタジアム核の案件は収益がブレませんか?
A:イベント依存で季節性はあります。非イベント日のMICE・シアター・見学導線等で平準化できるかがポイントです。鑑定ではイベント数・単価・稼働の感応度を置きます。
◆ Q2:金利上昇局面での評価は?
A:WACC上昇や出口利回りの保守化が必要です。工程長期化・投資額の大きさを踏まえ、フェーズ別リスクプレミアを検討します。
◆ Q3:都保有地での事業は地代が評価に効きますか?
A:効きます。地代・改定条項・再取得条件は残余利益と残余価格に直結します。契約条項の精査が不可欠です。
まとめ:歴史性を価値に変える設計
築地の「扇」の記憶を核に、国際水準の複合機能を重ねる本計画は、都心の新たな磁場となる素地を備えます。一方で、コスト・金利・需給・運営を巡る不確実性は小さくありません。用途別CFの分解、フェーズDCF、権利条件の精査、感応度分析を徹底し、歴史資源を持続的な不動産価値へと転換する評価設計が求められます。
当社はスタジアム・MICE・ホテル・オフィス・レジデンスを含む大規模複合の鑑定・助言を行っています。
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