2025年5月31日更新
福島県のいわき信用組合で不正融資が明るみに出て、経営陣の責任が問われています。本件は不動産担保を伴わない融資でしたが、過去には西武信用金庫で建物の耐用年数を故意に延ばし、実態より高い担保価値を算定して不正融資を行った例もありました。
金融機関は「預金者から預かったお金を融資し、その利ざやで利益を得る」ビジネスモデルです。だからこそ、融資を実行する際には客観的で公正な担保評価が不可欠です。本記事では、不動産の専門家である不動産鑑定士の立場から、一般の方に向けて「担保価値の重要性」と「不正を見抜く視点」を平易に解説します。
金融機関の融資と担保評価の基本
融資を行う際、金融機関は返済能力(キャッシュフロー)と担保価値(LTV:Loan To Value=融資額÷担保評価額)を総合的に審査します。融資額が担保評価額を大きく超えないように設定することで、もし借り手が返済不能になっても担保処分で債権を回収できるからです。
- 返済能力:給与や事業利益など、毎月の返済を確実に行えるか
- 担保価値:不動産・動産・保証人など、万が一の回収源
この「担保価値」を歪めれば、本来なら貸せない多額の融資も見かけ上“安全”に見せかけられます。いわき信用組合のケースは担保外融資ですが、信用組合の内部統制の甘さという点で本質は同じ――リスク管理の形骸化です。
西武信用金庫事件に学ぶ「耐用年数のごまかし」
建物の価値は残存耐用年数が短いほど下がります。そこで西武信用金庫の不正では、実際より長い耐用年数を計上し、帳簿上の担保価値を水増しして融資枠を拡大していました。
なぜ耐用年数が重要なのか
建物価格=再調達原価 ×(残存耐用年数 ÷ 全耐用年数)という考え方が基本です。残存年数を10年→20年に操作すれば、担保評価は単純計算で倍近くに増えます。これは金融機関内の審査を欺く典型的な粉飾であり、預金者にも重大なリスクを負わせる行為です。
不正鑑定との違い
不動産鑑定士は国家資格として不当な圧力を排除し、公正中立の立場で評価書を作成します。耐用年数の操作や依頼者本位の水増し評価は、鑑定評価基準にも職業倫理にも反します。もし鑑定士が加担すれば資格停止や損害賠償の対象となるのです。
担保評価が歪むと誰が困るのか
最終的に損を被るのは預金者と納税者です。不正融資が焦げ付き金融機関が破綻すれば、預金保険機構の資金や公的資金が投入される恐れがあります。これは社会全体のコストです。
- 融資を受けた企業:過大融資で返済不能、倒産リスク増大
- 預金者:金融機関の健全性悪化による信用不安
- 投資家・地域経済:不良債権増加で資金循環が停滞
不動産鑑定士が果たす役割
公正な担保評価には第三者としての不動産鑑定士が欠かせません。鑑定士は、鑑定評価基準に則り、土地・建物の再調達原価、取引事例、収益性などを総合判断して「適正価格」を提示します。
鑑定評価プロセスのポイント
1. 現地調査:現況・周辺環境・法規制を確認
2. 資料分析:登記簿、公図、都市計画、取引事例を精査
3. 価格決定:原価法・取引事例比較法・収益還元法の併用
4. 合理的説明:前提条件と計算根拠を明示し、恣意性を排除
鑑定評価書は「誰が見ても同じ結論に至れる透明性」を求められます。これにより金融機関は担保価値を適切に認識し、預金者の資産を守れるのです。
一般の方が知っておきたいチェックポイント
銀行や信用金庫から融資を受ける際、以下の点を確認すると安心です。
1. 担保評価機関を確認
「社内査定のみ」ではなく、外部の不動産鑑定士に依頼しているか。鑑定士名・登録番号を明示する金融機関は信頼性が高いといえます。
2. 耐用年数や修繕履歴の妥当性
減価償却累計額や修繕履歴を開示してもらい、建物の寿命を正しく認識しましょう。疑問点は専門家に相談するとリスクを早期に発見できます。
3. 融資額と担保評価額のバランス(LTV)
LTVが80%を超える高水準の場合、将来的な価格下落で超過債務に陥る恐れがあります。余裕のある借入計画を組むことが大切です。
まとめ
いわき信用組合や西武信用金庫の事例が示すように、融資不正の根底には「担保価値の歪曲」があります。金融機関と借り手、そして預金者を守るためには、客観的・公正な不動産鑑定が不可欠です。不動産鑑定士は厳格な評価基準と倫理規定のもと、担保の適正価値を示し、金融システムの健全性を支えています。
融資を受ける際には、担保評価の仕組みや鑑定士の役割を理解し、不明点があれば早めに専門家へ相談することを強くおすすめします。透明性の高い手続きを選ぶことで、ご自身の資産と社会全体の信用を守ることにつながります。
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