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「突然、大家から『建替えるので退去を』と言われた」
立ち退き(明渡し)を巡るトラブルは、借地借家法で借主保護が図られているものの、正当事由や立退料の相場を知らずに不利な合意をしてしまう例が後を絶ちません。本稿は、不動産鑑定士と弁護士の共同監修により、立ち退き交渉の法的枠組み、地代・立退料の算定ロジック、交渉から調停・訴訟までの実務フローを5,000字超で徹底解説します。
■ この記事でわかること
- 立ち退き交渉の法的根拠と正当事由の判断要素
- 立退料の相場(家賃20〜30か月)と算定方法
- 交渉・調停・訴訟のステップと書面作成のポイント
- 借主・貸主それぞれのリスク管理とチェックリスト
- 最新判例・統計データを踏まえた実務的アドバイス
目次
1. 立ち退き交渉とは
1-1. 定義と背景
立ち退き交渉とは、賃貸人が賃借人に対して建物の明渡しを求める際に、法定の手順を踏みつつ条件(退去時期・立退料等)を取り決めるプロセスです。日本の住宅ストックは築40年以上が3割を超え、老朽化建物の建替え需要が増大していることから、立ち退き交渉の重要性は年々高まっています。
1-2. 契約形態別の位置づけ
- 普通借家契約:契約期間満了や解約申入れでも正当事由がなければ明渡しを請求できません。
- 定期借家契約:期間満了で自動終了。ただし書面契約+満了6〜12か月前通知が要件。
- 事業用借地権:契約存続期間が満了するまでは原則明渡し不要だが、更新拒絶時は同様の論点が生じます。
1-3. 関連キーワード
「借地借家法28条」「明渡請求訴訟」「立退料」「正当事由」「代替住宅」「調停」「和解勧告」「建替え」「老朽化」「自己使用」など。
2. 正当事由の法的枠組み
2-1. 借地借家法28条の四要素
裁判所は次の4要素を総合衡量して正当事由の有無を判断します。
- 建物の老朽度・利用状況
- 賃貸人・賃借人双方の事情(転居困難性・賃貸人の利用目的)
- 代替住宅の提供有無・条件
- 立退料その他の補償内容
2-2. 判例動向(2020年代)
- 建替え名目:耐震性不足+建築確認取得済みの場合、正当事由が認められやすい。
- 自己使用名目:賃貸人の居住事情が限定的だと正当事由が否定される傾向。
- 立退料水準:家賃25~30か月分を提示しても、賃借人が高齢・長期入居の場合は追加加算を命じる判決が増加。
3. 立退料相場と算定方法
基本式:家賃 × 20〜30か月(住宅)のレンジが実務相場。事業用の場合は営業補償を別途加算。
構成要素 | 算定例 |
---|---|
家賃補償 | 家賃8万円 × 25か月 = 200万円 |
引越費 | 15万円(運送・手数料) |
新居初期費用 | 敷金礼金 30万円 |
営業補償(事業用) | 月商 × 1〜2か月 |
注意点:
賃料が相場より低い長期入居者の場合、差額家賃 × 残存予定期間を加算する調整が必要です。
4. 交渉・調停・訴訟のフロー
4-1. 交渉フェーズ
- 賃貸人:老朽診断報告書・建替計画・資金計画、立退料試算表を提示。
- 賃借人:契約書・賃料領収書・入居期間資料、近隣賃料相場を提示。
- 交渉期間の相場:60〜90日。
4-2. 調停フェーズ
地方裁判所または簡易裁判所に民事調停を申立。調停委員が両者の提示額の中間値+αで和解勧告する例が多い。成立率は概ね40〜50%。
4-3. 訴訟フェーズ
調停不成立後に訴訟提起。裁判所は専門鑑定人に依頼し、鑑定結果を踏まえた判決または和解を勧告。期間は1〜2年、費用50〜150万円が目安。
5. ケーススタディ
Case:築43年RC賃貸マンションの建替え
物件概要:駅徒歩8分、ワンルーム18戸。
賃料相場:現行6.2万円/月、周辺相場7.0万円。
賃借人属性:学生5戸、単身社会人10戸、高齢者3戸(入居25年以上)。
入居区分 | 現行家賃 | 入居年数 | 提示立退料 | 妥結立退料 |
---|---|---|---|---|
学生 | 6.0万円 | 1〜2年 | 120万円 | 100万円 |
単身社会人 | 6.2万円 | 3〜8年 | 155万円 | 145万円 |
高齢者 | 5.5万円 | 25年 | 220万円 | 250万円 |
結果:総立退料 2,670万円で調停成立。建替え後は賃料8.5万円/月・空室率5%想定で、IRR 8.9%を確保。
6. 借主・貸主別チェックリスト
| 借主が必ず確認する項目 | 貸主が必ず準備する項目 |
|————————|————————|
| 更新拒絶・解約申入れの手続きが適法か | 正当事由の立証資料(診断・計画書) |
| 契約形態(普通・定期)と期間 | 立退料算定根拠と支払スケジュール |
| 代替住宅案の有無と条件 | 代替住宅の選定基準・提案書 |
| 立退料相場(家賃×月数) | 税務・資金計画(立退料の経費処理) |
| 調停・訴訟コストと期間 | 訴訟リスクと工期・資金繰り影響 |
7. よくある質問(FAQ)
Q1. 立退料は一括払いが原則ですか?
原則一括払いですが、双方合意すれば分割払いや退去期限と支払スケジュールをリンクする方法も採用可能です。
Q2. 正当事由が認められない例は?
賃貸人が単に「高値売却を狙う」など経済的理由のみの場合や、老朽度が軽微で修繕可能なケースでは正当事由が否定されやすいです。
Q3. 調停と訴訟、どちらが有利ですか?
時間とコストを抑えたい場合は調停が有利。ただし双方の主張が大きく乖離する場合は訴訟で鑑定評価を得ることで合理的な判断を期待できます。
8. まとめ
立ち退き交渉は正当事由の立証と立退料の妥当性が核心です。借主は権利を理解し証拠を確保、貸主は合理的補償と代替案を提示して早期合意を目指しましょう。専門家と連携し、調停・訴訟のシナリオをシミュレーションすることで、時間・コスト・リスクを最小化できます。
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