近年、不動産取引において「地面師」による詐欺が社会問題となっています。地面師とは、偽造書類や架空の身分証明を駆使して不動産の所有者に成りすまし、第三者に不動産を売りつけてお金をだまし取る集団です。特に、複数人が名義を持つ不動産(共有物分の不動産)では、誰が本当の所有者なのかがさらにわかりづらくなるため、注意が必要です。
本記事では、不動産鑑定士・宅地建物取引士として、共有物分の不動産取引でどのように本人確認を行えばいいのか、その具体的な方法やポイントを初心者にもわかりやすく解説します。地面師による詐欺を未然に防ぐために、ぜひ最後までお読みください。
なぜ共有物分の不動産は地面師の標的になりやすい?
まず理解しておきたいのが、「なぜ共有物分の不動産が地面師のターゲットになりやすいのか」という点です。背景には以下のような要因が考えられます。
1. 所有者が複数いて情報の管理が複雑
共有物分の不動産は、所有者が一人ではありません。例えば、相続によって兄弟が共有しているケースや、親子で持分を分けて所有しているケースなどさまざまです。複数の所有者がいると、それぞれの意向を確認するのが難しく、本当に全員が合意しているのかが不明瞭になりがちです。
2. 相続や転居で行方不明になっている所有者が多い
共有物分では、一部の所有者が転居先を知らせていなかったり、相続後に連絡が取れなくなったりするケースも珍しくありません。こうした状況は、地面師から見ると「本人確認が曖昧になりやすい」「偽装しやすい」と映り、詐欺の温床になり得ます。
3. 不動産自体の価値が高い
共有物分とはいえ、不動産そのものの価値が高ければ、地面師が狙うインセンティブも高まります。特に都市部の好立地の不動産や広大な土地などは、分筆された共有持分だけでも相当な金額になるため、標的になりがちです。
共有物分の不動産取引で押さえておきたい本人確認の基本
地面師に騙されないためには、厳格な本人確認が欠かせません。とりわけ、共有物分の不動産では、通常以上に書類や手続きに注意を払う必要があります。
1. 公的身分証明書のチェック
売主や共有者が本当に本人なのかどうかを確かめる最も基本的な方法は、公的な身分証明書の確認です。
運転免許証、パスポート、マイナンバーカードなどに加えて、顔写真や氏名・住所などが一致しているかを入念に確認しましょう。ただし、これだけでは偽造の可能性をゼロにできません。提示してもらった原本を必ず目視でチェックし、コピーだけで済ませないように注意してください。
2. 印鑑証明書と実印の照合
不動産売買契約では実印が一般的に使われ、印鑑証明書の提出を求めるのが通常です。印鑑証明書の日付が古すぎないか、証明書の登録情報と契約書上の氏名・住所が一致しているかなどを細かくチェックしてください。
また、印鑑証明書を偽造しているケースもあるため、自治体で発行されたものかどうかを見極めることが重要です。
3. 共有登記簿謄本との整合性
共有名義になっている不動産の場合、登記簿謄本(登記事項証明書)には各共有者の持分や氏名、住所などが記載されています。契約書に記入された情報や身分証明書の情報と登記情報が一致しているかを確認し、少しでも違和感があれば即座に疑うべきです。
4. 共有者全員とのコンタクトを試みる
共有物分である不動産を売却する際、本来は全共有者が合意している必要があります。地面師は「他の共有者もOKしている」と嘘をつき、単独で契約を結ぼうとするかもしれません。
そのため、共有者が何人いるのかを登記簿で確認した上で、できる限り全員に連絡を取ることが理想です。「ひとりだけが売ろうとしているが、連絡先が不明」という場合は、さらに念入りな調査が求められます。
地面師に騙されないための追加チェックポイント
基本的な本人確認だけでなく、地面師特有の手口を見抜くためには、以下のような追加のチェックポイントを押さえておくと役立ちます。
1. 不自然に急かしてくる取引
地面師は、時間をかけると偽装がバレるリスクが高まるため、「早く契約しないと別の買い手がつく」などと急かすことが多いです。こうした急ぎの取引は詐欺の兆候である可能性が高いため、落ち着いて一つひとつ確認する姿勢が大切です。
2. 相場とかけ離れた価格設定
地面師が「破格の条件で早く売ってしまいたい」と主張し、相場よりも極端に安い、または高い価格を提示するケースがあります。あまりに相場を逸脱した金額には、疑いの目を持って臨むべきです。
不動産鑑定士や宅地建物取引士に相談し、適正価格を把握することで、不審な取引を早期に見抜ける可能性が高まります。
3. 住所や実家情報の確認
共有者が実際に住んでいる住所や実家、勤務先などが存在するかを調べる方法も有効です。地面師は偽装のために架空の住所やビジネス上の関係しかない住所を使うことが多いので、インターネットや市役所の閲覧サービスを活用して調査してみるといいでしょう。
4. 共有者同士の関係をヒアリング
売主(共有者)の口から、他の共有者との関係や連絡状況を具体的に聞いてみることも効果的です。地面師は細部まで偽装を完璧にできない場合が多く、突っ込んだ質問に対して曖昧な回答しかできないことがあるからです。
「具体的にどの兄弟がどれだけ持分を持っているのか?」といった質問にスラスラ回答できるかどうかを観察しましょう。
トラブルを防ぐための具体的手続き・制度
本人確認の方法だけでなく、実務で使える手続き・制度を活用すれば、地面師詐欺のリスクはさらに減らせます。
1. 事前通知制度(登記識別情報)
不動産登記の際に、本人確認のための登記識別情報(いわゆる「権利証」)の提示が必要になります。これがないと登記手続きが困難になるため、地面師はそれを偽造しようとします。
事前通知制度では、登記を申請したときに法務局から所有者本人に書面が送付され、本人が承諾しない限り登記が完了しない仕組みがあります。ただし、こちらも完全に偽装を防げるわけではありませんが、重ねてチェックする意義は大きいです。
2. 公正証書の活用
売買契約を公証人役場で公正証書として作成してもらうと、契約の信頼性が高まります。公証人が当事者の本人確認をしっかり行い、契約書の内容を公的に証明してくれます。ただし、公正証書作成には手数料や手間がかかるため、費用対効果を考えながら検討しましょう。
3. トラブル防止のための支払方法
地面師詐欺では、現金一括払いを要求されたり、怪しい口座に送金するよう求められたりする場合があります。安全策としては、銀行振込や金融機関のローン利用など、追跡が可能な支払い方法を選択するのが望ましいでしょう。仲介業者や司法書士の口座を一時的に利用する「エスクローサービス」も検討に値します。
もし地面師と疑われる人物と遭遇したら?対処方法
ここまでで紹介したポイントを踏まえ「何かおかしい」と感じた場合には、以下のような対処を検討しましょう。
1. 書類の真贋を専門家に確認してもらう
偽造書類を見抜くのはプロでも難しい場合がありますが、偽造を繰り返し見てきた司法書士や弁護士、不動産会社などの専門家ならば怪しさを見抜けることも多いです。
「どうしても納得いかない」という書類があれば、すぐに契約を進めるのではなく、セカンドオピニオンとして専門家の目を通してもらいましょう。
2. 共有者全員の承諾状況を再確認する
共有物分の売買では、原則として全共有者の合意が必要です。怪しいと感じたら、他の共有者との連絡を取り直し、本当に売却に同意しているのかをダブルチェックしてください。
また、持分の一部だけを売るケースでも、他の共有者に通知しなければならない状況があるため、専門家に相談しながら手続きの正当性を確かめることが大切です。
3. 取引を一旦保留して警察や弁護士に相談
「絶対に怪しい」という確信が得られた場合には、安易に契約を結ぶ前に取引を停止し、警察や弁護士に相談してください。地面師は手口が巧妙で、騙された後では取り返しがつかないケースがほとんどです。
少しでも違和感があれば取引を一旦止める勇気が重要で、「あと一歩でサインしそうだった」という段階でも、被害を未然に防げる可能性はあります。
まとめ
地面師による詐欺は、偽造書類や巧妙な成りすましで買い手や仲介業者を欺く悪質な行為です。共有物分の不動産は所有者が複数いるため、誰が本当に売却権限を持っているのかがわかりにくく、詐欺のリスクが上がりやすいといえます。
本人確認の基本は「身分証明書の原本確認」「印鑑証明書の活用」「登記簿謄本との整合性チェック」「共有者全員への確認」を徹底すること。さらに、不自然な急ぎの取引や相場とかけ離れた価格には警戒を払いつつ、公証人役場や専門家の知見を活用することが有効です。
少しでも不審に思ったら、取引を進める前にすぐに専門家や警察に相談しましょう。「怪しいと感じたらストップ」—この姿勢こそが地面師対策の第一歩です。
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