不動産を持っていると、毎年必ず課税されるのが「固定資産税」です。土地や建物を所有していれば、原則としてその評価額に応じて市区町村(自治体)から納付書が届きます。しかし、もし不動産が「共有持分」として複数人で所有されていた場合、この固定資産税はどのように支払うのでしょうか。また、共有者のうち一人が支払いをしないとなった場合、他の共有者が肩代わりするしか方法はないのか――気になるところですよね。
本記事では、不動産鑑定士・宅地建物取引士の視点から「共有持分の固定資産税」に焦点を当て、基礎知識やトラブルを避けるためのポイントを初心者の方にもわかりやすく解説します。専門用語はできるだけ避けて、なるべく具体的な事例に沿って説明していきますので、共有名義の不動産を持っている方やこれから相続などで共有になる可能性のある方は、ぜひ最後までご覧ください。
共有持分とは?簡単なおさらい
共有持分(きょうゆうもちぶん)とは、ひとつの不動産を複数人で所有する場合に、各共有者が持つ所有権の割合を指します。たとえば兄弟3人が親から土地を相続したとき、それぞれ3分の1ずつの権利を持つ場合が典型的な例です。実際の不動産は物理的には分割できないため、このように「割合による所有権」という形で持分を示します。
共有名義の不動産は、相続や夫婦共同名義など、日常でも意外と多く存在します。もちろん、「自分の持分だけを売る」ということも法的には可能です。しかし、固定資産税を誰がどのように支払うのかという点では、共有者同士の合意や話し合いが大きなカギを握ります。
固定資産税の基本的な仕組み
まずは固定資産税の基本的な仕組みを簡単に整理しておきましょう。固定資産税は、土地や建物などの固定資産を所有している人に対して、毎年1月1日時点の所有者に課税される地方税です。市区町村が不動産の評価額を基に税額を計算し、納付書を送ります。
固定資産税の重要なポイントは以下のとおりです。
- 毎年1月1日時点で不動産を所有している人が納税義務者になる
- 納付書は通常、登記簿上の「代表者」または「共有者のうち1名」に一括で送られることが多い
- 評価額は土地・建物ごとに算出され、市区町村が管理している
共同名義の場合でも、不動産の評価額自体は「土地や建物全体」で決定されます。そこから持分割合ごとに分割して納税額を把握できるようにする仕組みですが、実務的には「誰がどう支払うか」を共有者同士で決める必要があります。
共有持分と固定資産税の関係
共有名義で不動産を所有しているケースでは、「各自の持分割合に応じて負担する」のが原則となります。たとえば、土地が共有状態にあり、固定資産税が年額10万円とします。3人で3分の1ずつ共有しているなら、理屈のうえでは各人が3万3,333円ほどを負担するイメージです。
しかし、納付書は通常、共有者の代表となる方にまとめて送られます。そのため、代表者が全額をいったん立て替えて支払い、あとから他の共有者に持分相応の金額を請求するという流れになることが多いようです。もちろん、最初から納付書を分割してもらうように市区町村へ相談することも可能ですが、必ずしも受け付けてもらえるとは限りません。自治体によって対応が異なるため、気になる方は事前に確認しましょう。
共有者の中に滞納者が出たらどうなる?
もし共有者のうち1人が持分に応じた固定資産税を支払わない、あるいは代表者にお金を払わないといった事態が起こった場合はどうなるのでしょうか。結論から言うと、固定資産税そのものの納税義務は「所有者全員」に対して連帯的に課されるわけではありませんが、実務上は代表者に納付書が来るため、代表者が不安を抱えることになるケースが多いです。
法律的には「持分割合」に応じた納税義務があるものの、市区町村は一度納付書を出せば「全額」についての支払いがないかぎり、延滞金や差し押さえなどの措置を進めることがあります。結果的に、代表者やきちんと支払っている共有者まで迷惑を被るおそれがあり、そのまま滞納を続ければ不動産自体に差し押さえが入る可能性も否定できません。
1人が払わない場合、残りの人が払うしかないのか?
最も気になるのが、「共有者のうち1人が支払わないとき、他の共有者が肩代わりしないといけないのか?」という点です。実際には以下のようなシナリオが考えられます。
1. 代表者が全額を一時的に立て替える
納付書がまとめて送られている場合、滞納を防ぐために代表者がやむを得ず全額を支払うことがあります。その後、支払わなかった共有者へ持分相当額を請求する形を取るわけですが、問題はその請求に応じないケースです。
支払わない相手から取り立てるには、最終的には法的措置(民事訴訟など)を検討せざるを得ない場合もあります。しかし、そのプロセスは時間と費用、心理的負担も大きいため、できるだけ事前に合意形成を行っておくことが望ましいでしょう。
2. 自治体が共有者全員に督促状を送る
自治体によっては、固定資産税の未納分がある場合、所有者全員を調べてそれぞれに督促状を送ることもあります。ただし、実務面では代表者に集中して通知が届くケースも多く、他の共有者が滞納を知らないまま事態が進行する恐れもあります。
このように、自治体の対応は必ずしも一律ではなく、現場の運用によって変わります。共有者間で連絡がスムーズにとれていれば問題が大きくなる前に解決できることもあるので、定期的なコミュニケーションが重要です。
3. 最終的な責任と差し押さえのリスク
固定資産税は不動産そのものに紐づく税金です。滞納が続けば、税務当局(市区町村)は不動産を差し押さえる権限を持っています。すると、その物件全体の価値が下がるばかりでなく、売却や活用にも悪影響が及びかねません。
このような事態を避けるためにも、納税期限までにしっかりと合計額を支払うことが重要であり、誰かが払わないからと放置していると、結局は共有者全員にとって大きなマイナスになるのです。
共有持分の固定資産税トラブルを防ぐためのポイント
共有持分に関する固定資産税トラブルを未然に防ぐためには、いくつかのポイントがあります。以下を参考に、共有者間でしっかりと対策を話し合いましょう。
1. 共有者同士の管理協定を結ぶ
口頭だけで「じゃあ、毎年きちんと払ってね」と言っていても、のちのちトラブルが起きたときに証拠や法的根拠が残りません。
そこでおすすめなのが「管理協定」の締結です。内容としては、
- 誰が代表して納付するか
- 他の共有者は何月までに自分の持分相当額を支払うか
- 滞納があった場合の対処方法
- 不動産のメンテナンス費用などの負担方法
などを文書化し、全員が署名・捺印して保管しておくと安心です。
法的に強制力を高めるためには、公証役場で「合意書」を公正証書にするという手段もあります。こうした準備をしておくと、トラブルが起きたときにスムーズに対応できます。
2. 納付書の分割を市区町村に相談する
市区町村によっては、共有持分ごとに納付書を分割して発行してくれる場合があります。そうすれば、代表者だけが立て替える必要がなく、各自が自分の負担分を直接支払う形で済むのでトラブルを減らしやすいです。
ただし、自治体によっては分割発行に対応していないことや、手続きに時間がかかることもあるため、事前に役所の税務担当部署に問い合わせてみるのがよいでしょう。
3. 支払い状況を定期的にチェック・共有する
共有者が複数人いる場合、「誰がいつどこまで払ったのか」が分かりにくくなります。特に遠方に住んでいる共有者がいると、連絡が遅れてしまうことも。
年に1回や半年に1回など、支払い状況を確認するミーティングやグループメッセージを活用し、全員がきちんと負担しているかをチェックしましょう。滞納が疑われる場合は早めに声をかけ、問題解決に向けた話し合いを始めることが大切です。
4. 最終的には専門家・法的手段も視野に入れる
「どうしても一人が払わない」「連絡も取れない」という深刻な状況に陥った場合は、不動産鑑定士や弁護士、司法書士などの専門家へ相談し、法的手続きを視野に入れる必要があります。
裁判所を通じて強制的に債権回収を行う方法や、共有状態を解消する「共有物分割請求」といった制度を利用するケースもあるでしょう。ただし、時間と費用がかかるため、できるだけ事前の対策で防ぐのが理想です。
共有物分割請求との関係
もし、共有不動産のトラブルが固定資産税だけにとどまらず、管理・利用・将来の方針などで合意が得られない場合は「共有物分割請求」が選択肢に上ることもあります。
共有物分割請求とは、民法によって認められた制度で、共有状態を強制的に解消するための手段です。簡単に言えば、「もう一緒には所有し続けられないから、裁判所に判断してもらい、売却などで共有を解消する」というものです。
固定資産税の滞納トラブルが長引いて不動産価値が下がってしまう前に、いっそ売却や分割で解決するのか、それとも話し合いで続けていくのか、早めに共有者同士で将来の方針を検討することが大切です。
まとめ
共有持分で所有している不動産の固定資産税は、基本的には「各共有者が自分の持分に応じて負担」する仕組みです。しかし、自治体は代表者に一括で納付書を送るのが通例であり、1人が支払わない場合には残りの共有者が立て替えるなどの対応を余儀なくされるケースが多くなります。
このようなトラブルを避けるためには、あらかじめ共有者全員で管理協定を結び、納税方法や費用負担のルールを明確にしておくことがポイントです。また、市区町村に納付書の分割を相談する、定期的に支払い状況を確認するなどの実務対策も効果的です。
それでも解決しない場合には、専門家に相談して法的手段も含めた解決策を探る必要があります。固定資産税の滞納が長引くと、結果的に不動産全体が差し押さえの対象となるリスクも否定できません。共有不動産を円滑に管理し、資産価値を保つためにも、早めの合意形成と情報共有が何より重要です。
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