不動産を相続するとき、一般的には土地や建物を「まるごと一人で受け継ぐ」というイメージを持つ方が多いかもしれません。しかし、家族構成や遺産分割の内容によっては、「共有持分」という形で不動産を相続することもよくあります。これは一つの不動産を複数人で持ち合う状態を指し、相続人がそれぞれ「◯分の◯」という割合を持つことです。
共有持分は、一見シンプルなように思えますが、実際には・売却したいときに他の共有者の同意が必要だったり・維持費の負担ルールが不明瞭になりがちだったりと、さまざまな問題が潜在しています。また、相続にまつわる税金の仕組みも理解しておかなければ、思わぬ負担が発生することもあります。
そこで本記事では、不動産鑑定士・宅地建物取引士の立場から、「共有持分を相続するときに気をつけるポイント」を、税金面を含めてわかりやすく解説していきます。専門用語をできるだけ避け、初心者の方にも読みやすい形にまとめましたので、ぜひ参考にしてください。
共有持分とは?基本的な概要
共有持分とは、不動産の所有権を複数人で分け合う状態のことです。例えば、親から土地を相続するときに、きょうだい2人が2分の1ずつの割合で取得すれば、その土地は共有状態にあります。それぞれの持分は「2分の1」という形で登記され、法的にはどちらの持分も全体に対して権利を持つ、という考え方です。
このように、共有持分はわかりやすく言えば「不動産を複数人で共有している」状態ですが、実は単独所有と比べて使い勝手や意思決定が複雑になることも少なくありません。
共有持分の相続でよくあるトラブル
共有持分は、相続で一番多く発生するケースと言っても過言ではありません。ですが、意外と問題点が多いことも事実。以下に代表的なトラブル例を挙げてみます。
1. 売却時に他の共有者の同意が必要
共有物の全体を売りたい場合、共有者全員の合意が必要です。自分だけ「早く売りたい」と思っても、他の共有者が「まだ売りたくない」と反対すれば、思うように売却できません。特に相続人が複数いて意見が合わない場合は、売却活動自体がストップしてしまう可能性があります。
2. 修繕費や維持費の負担があいまいになりがち
不動産には固定資産税や修繕費など、維持するためのコストがかかります。共有持分を相続した人は、その割合に応じて負担するのが本来の姿ですが、実際には「誰がどこまで払うのか」が曖昧になり、のちのちトラブルの原因になることがあります。
3. 遠方在住の共有者が意見を出せない
相続人のうち一人が遠方に住んでいるケースや、高齢の相続人が意思決定に時間がかかるケースでは、共有者間のコミュニケーションが難しくなります。結果として、話し合いが進まず、不動産の活用や売却が滞ってしまうこともあります。
相続税の計算と共有持分
共有持分を相続すると、当然ながら相続税の計算にも影響があります。相続税を算定するうえで押さえておきたいポイントを確認してみましょう。
1. 不動産全体の評価から持分割合を算定
相続税は、不動産全体の評価額に基づいて計算されます。たとえば土地の評価額が4,000万円である場合、2人が2分の1ずつ共有していれば、それぞれ2,000万円の相続財産として計算されるイメージです。
ただし、実際には路線価や固定資産税評価額などをもとに、より細かい計算を行うのが一般的です。相続税を正しく申告するためにも、不動産の評価については専門家に確認することをおすすめします。
2. 小規模宅地等の特例が使えるかどうか
居住用や事業用の土地に対しては、相続税の軽減措置である「小規模宅地等の特例」が適用できる場合があります。これにより大幅な減税が可能です。ただし、共有状態であっても一定の要件を満たさないと適用できなかったり、適用面積が制限されるケースもあるため、事前に確認が必要です。
3. 二次相続や将来の負担を見据える
一度相続した不動産は、将来また相続(いわゆる二次相続、三次相続)される可能性があります。共有者が増えれば増えるほど、「誰がどのくらいの割合を持つのか」がますます複雑化し、合意形成が難しくなる恐れがあります。相続税の負担も複数回にわたる可能性があるため、早めの対策が重要です。
共有持分を相続した際の対処法
共有状態はトラブルが発生しやすいことから、早めに解消するか、もしくはルールを明確化しておくことが望ましいです。ここでは、共有持分を相続したときにとり得る主な選択肢を紹介します。
1. 他の共有者と話し合い、買い取りや一括売却を検討
もし共有不動産を活用する予定がない場合や、維持費の負担を避けたい場合は、他の共有者に自分の持分を買い取ってもらうのが一つの手です。
他の共有者にとっては、持分を買い取ることで不動産を単独所有に近づけられるメリットがあるため、スムーズに話が進むこともあります。さらに、全員が売却に同意して物件全体を一括で売るほうが高値で売却できるケースも多いので、まずは共同売却の可能性を探ってみましょう。
2. 共有者間で管理費用やルールを文書化
すぐに共有状態を解消しない場合でも、維持管理費用の分担や使用ルールを明確にしておくとトラブルを減らせます。
例えば、「固定資産税は持分割合に応じて支払う」「大きなリフォームは共有者全員の同意で行う」など、具体的な取り決めを文書化しておくと、のちの紛争を防ぎやすいです。
3. 共有物分割請求という最終手段
どうしても話し合いがまとまらない場合は、裁判所に「共有物分割請求」を行うことも可能です。これは、共有者の一人が「共有状態をやめたい」と裁判を起こし、最終的には競売で物件を売却し、その代金を分配する仕組みです。
ただし競売になれば市価より安い値段で売却されることが多く、互いにとって得策ではないケースがほとんど。あくまで最終手段として位置づけるのが現実的でしょう。
税金面での注意点
相続税だけでなく、共有持分を持っている間は固定資産税やその他の税金を支払う必要があります。以下で代表的なものを確認しておきましょう。
1. 固定資産税の負担
共有者は、通常持分割合に応じて固定資産税を負担する必要があります。納付書が共有者の代表者に一括で届く場合もあるため、誰がどのタイミングでいくらを負担するのか取り決めておかないと、あとからトラブルになる可能性があります。
2. 譲渡所得税の可能性
共有持分を他の共有者や第三者に売却して利益(売却額−取得費等)が出た場合には、譲渡所得税の課税対象となります。相続で取得した不動産の「取得費」がはっきりしない場合は「概算取得費」を使うこともあるため、税額が大きく変わることも。事前に税理士などに相談し、正確な計算を行いましょう。
3. 相続時精算課税や贈与税の検討
共有者同士で持分を移転する際、単なる売買ではなく贈与や遺贈などの形になる場合もあります。その際、贈与税や相続時精算課税制度の適用可否などを検討しないと、思わぬ税負担が発生する可能性があります。
特に家族間でのやり取りは安易に進めがちですが、税金周りは非常に複雑なので、事前の専門家相談が欠かせません。
共有持分の相続で後悔しないための対策
共有状態の不動産は、「争族(あらそうぞく)」を引き起こしやすいとも言われています。円満に相続を進め、後から悔やまないための対策をいくつかご紹介します。
1. 生前に遺言書や遺産分割の方針を決めておく
被相続人が生前のうちに、「誰がどの不動産を単独で相続するのか」や「どんな条件で共有するのか」を明確にしておくと、多くのトラブルを回避できます。
遺言書を作成しておくのが最善ですが、家族会議である程度の方針をすり合わせておくだけでも効果的です。
2. 共有になったら早めに解消を検討する
共有持分を相続してしまったら、そのまま放置せず、早めに解消方法を検討しましょう。
・他の相続人に自分の持分を売る
・全員が合意して不動産自体を売却し、その代金を分割する
・将来的に誰が住むのか、誰が管理するのかをきちんと決める
こうした具体策を話し合うだけでも、後の紛争を避けられます。
3. 専門家への相談を積極的に行う
共有持分の相続には、法律・税務・不動産評価など複数の専門知識が絡むため、個人の判断だけで進めるとリスクが高まります。
不動産鑑定士や宅地建物取引士、弁護士、税理士などの専門家からアドバイスを受けることで、最適な解決策を見つけやすくなります。
特に相続税の計算や売却時の譲渡所得税など、税金にまつわる手続きは複雑なので、早めの相談が安全です。
まとめ
共有持分の相続は、家族構成や遺産分割の事情から避けられない場合が少なくありません。しかし、共有状態の不動産には、相続税の計算や売却時の合意形成、管理費用の負担など、さまざまな注意点があります。特に、税金面では相続税や譲渡所得税など多岐にわたるため、初心者の方は頭を抱えがちです。
だからこそ、相続が発生する前に遺言書を準備したり、家族間で話し合いを行ったりすることが重要になります。そして、もしすでに共有持分を相続した場合でも、早めに解消方法を検討したり、管理や負担のルールをしっかり決めるなどの対策を取ることで、後々のトラブルを回避できます。
どうしても意見がまとまらない場合は、最終手段として共有物分割請求がありますが、競売にかかると不動産の価値が大きく下がりやすいことを理解しておきましょう。
最適な判断をするためには、専門家のアドバイスが欠かせません。必要に応じて不動産鑑定士や弁護士、税理士に相談しながら、納得のいく相続対策を進めてみてください。
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